感覚過敏で「雨の音と先生の声が同じ音量に」

── 感覚に敏感なんですね。

 

鳥居さん:そうそう。私、音にも敏感なんですよ。だから隣の教室の先生が咳払いする音とかが、ものすごい聞こえちゃう。

 

あと、雨の音が先生の声と同じぐらいに聞こえちゃうんですよ。疲れているときだと余計ひどくなってきて、全部同じボリュームで聞こえちゃったりして。そういうのが本当に嫌だったんですけど。

 

でも、先生がすごく気づかってくれて。リスニングの小テストとかは、私がパニックになっちゃうからって、私だけあとで保健室で受けさせてもらえたんです。

 

── へえー!

 

鳥居さん:私はとにかく人に支えられて、何かあったときは周りが理解してくれたんです。「あの人変」とか言われたけど、うちの家族はみんな変って言われてたんで(笑)。

 

うちの父親は「人は自分の経験上、知らないものとか見たことがないものとかを変って言っているだけだから。だから、変とか言う方が変だから」と言っていて。

 

── 素敵なお父さんですね。

 

鳥居さん:でも、そのとき私、すごい寝癖がついていて。そしたら父親が「なんだお前、その髪型、変だな」って言ったんですよ。「変って言ってんじゃん!」と思って。

 

── (笑)。

「菓子パンしか食べたくなかった」中学時代

鳥居さん:だけど父とは「変って言ってんじゃん」みたいに言える関係性なんですよ。だから、良かったなとは思います。あんまり排除する人たちに囲まれてなかったんですよ。

 

私、ずっと菓子パンしか食べたくないっていう時期があったんですよ。

 

── いつごろですか。

 

鳥居さん:給食があったので、中学生くらいかな。先生が「いいよ」って言ってくれたので、私だけ菓子パンを持って登校していました。給食もたまに食べましたけど。

 

小学生は、本当に昔ながらの昭和な学校だったので「食べるまで立ってなさい」だったんですけど。だけど、私、本当に食べないんで、ただ立っていて邪魔なだけで。途中で「もういいよ。残しな」ってなりました。

 

── それは、お腹は空いているけど、食べたくないという感じなんですか?

 

鳥居さん:うちの父親が偏っていて、「好きじゃないものを食べて太るな」って方針なんですよ。好きなものだけ食べて太るならいいって。度が過ぎた自由っていうか。

 

父親が昔、言っていたのは、「『適当』って言葉は、いいかげんって意味もあるけど、『適してる』『当たってる』っていう言葉でもある。(いい加減の意味の)『適当』を真剣にやると(ちょうど良い意味の)『適当』になるから」って。

 

だから、「あんまり人に合わせようとしなくていいよ」と言われていました。

 

── 素敵なお父さんですね。

 

鳥居さん:でも父は、周りからは「変な人」って言われていましたよ。役場の会議みたいなのに、ずっと母が行ってたんですが、あるとき、母が行けなくて代わりに父親が出たときがあったんです。

 

それで、周りにコソコソ「今日はお父さんなのかしら」みたいに言われたらしく、父が「今なんて言ったんですか!?もう一回言ってください」って言って、大ごとになったらしいですよ。

 

── 言いたいことを自分の中に溜めておけないタイプの人なんですね。

 

鳥居さん:全然、溜めておけないです。そういう父親に育てられちゃったから。

 

── 鳥居さんがのびのび育つことができたのは、お父さんの影響が大きかったんですね。

 

鳥居さん:でも、父親ルールでは厳しかったですよ。はっきりしてるから「これ美味しいから食べてみろ」って言われて、「いらない」と一回断ったら、その後で「やっぱりもらおうかな」っていうのが許されないんですよ。

 

一度決断したら、もう一生決断したと思えっていう人なんですよ。やり直しがきかない。優柔不断がダメなんです。だからおっかなかったですよ。

 

母親はのんびりしていて。仕事でミスして、反省文を書かなきゃいけないんですけど「反省ってどういう漢字だったっけ」って言って、全部ひらがなとカタカナで書いて「全然反省の気持ちが伝わらないんだ・・・・」と言っていました。

鳥居みゆき
「納得してからでないと前に進めない」と語る鳥居みゆきさん

納得してからでないと進めない

── (笑)。子供の頃、周りからされて嫌だったことや「こうして欲しかった」ということはありますか?

 

鳥居さん:うーん、いい人が多かったからなあ…あ、でも、嫌だったのはゼロの掛け算がテストで出たんです。それを、空欄で出したんですよ。

 

先生は「0って書けばいいんだから書けよ」っていう感じだったんですけど、私はなんで0になるかが理解できなかったんですよ。

 

── 0の掛け算って、概念が難しいですよね。

 

鳥居さん:そうそう。0って書きゃいいことは分かっているんだけど、私は納得してからじゃないと進めないんです。だから、書きたくないんですよ。

 

「いいんだよ、0って書いときゃ」って言った先生は、私はいまだに「違うだろ」って思っています。

 

私は、いまだに「なんで?なんで?」とか言っちゃうんだけど、「ググレカス」にならない程度のことだったら、なんでも人に聞いてもいいと思っています。今はネットで何でも調べられるけど、そのときの「なんで?」はコミュニケーションだと思うんですよね。

 

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PROFILE 鳥居みゆきさん

2001年に芸人デビュー。「ヒットエンドラーン」などのネタでブレイクし、2008年、2009年の「R-1ぐらんぷり」決勝進出。生と死、時事ネタなどを盛り込んだ単独ライブ「狂宴封鎖的世界」も精力的に行う。また、数々の映画やドラマ、舞台などで主演を務めるなど女優としても活躍。このほか、ミュージックビデオの監督や、小説「余った傘はありません」刊行など、マルチに活躍。2022年4月から発達障害をテーマにした番組「でこぼこポン!」(Eテレ)にレギュラー出演する。

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美