突然ですが「プッシュプル運転」という運転方式を聞いたことがありますか?おそらく、ほとんどの方は聞いたことがないはず。なぜなら、あまり日本では見られない運転方式だからです。むしろ、ヨーロッパでよく見られます。今回は日本では馴染みのないプッシュプル運転を親子で勉強してみましょう。

そもそも、プッシュプル運転とは

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プッシュプル運転は主に機関車と客車の組み合わせでよく見られる運転方式です。当然のことながら、機関車が動力車となり客車を引っ張るのが基本です。プッシュプル運転は列車の最後尾に制御車(運転台付き客車)を連結させ、双方向に進めることができる運転方式を指します。つまり、機関車が客車につられるように逆向きに走ることもありえる、というわけです。

 

また、日本では機関車を両端に連結させて運転することもプッシュプル運転といいます。この場合、先頭の機関車が客車を引っ張り、最後尾の機関車が客車を押します。機関車同士のプッシュプル運転は大変難しく、先頭機関車の運転士と最後尾機関車の運転士がトランシーバーなどで連絡をしながら、列車を動かします。もし、先頭機関車が引っ張らず、最後尾機関車だけが客車を押したら大変!確実に脱線します。いずれにせよ、プッシュプル運転を行う運転士は経験が必要なのでしょう。

 

それでは、プッシュプル運転を行うメリットはなんでしょうか。機関車と制御車の場合、列車を双方向に動かせるため、終着駅における機回し作業の手間が省けます。機回し作業とは終着駅で機関車を付け替えること。機関車と一般客車の組み合わせですと、どうしても機回し作業が必要です。

 

一方、国内で機関車同士のプッシュプル運転を行っている列車はJR北海道・石北本線の貨物列車、通称「玉ねぎ列車」です。「玉ねぎ列車」は夏~春にかけて運行され、多くの玉ねぎを載せることから名付けられました。玉ねぎ列車は峠越えや列車を逆向きに走らせるスイッチバックがあるため、パワー不足を補え、機回し作業が省ける運転方式が求められます。これに合致するのが機関車同士のプッシュプル運転なのです。

外国でよく見られるプッシュプル運転

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プッシュプル運転は外国でよく見られる運転方式です。特にドイツ、チェコ、オーストリアといった中欧諸国では特急列車から近郊列車まで、あらゆる列車でプッシュプル運転を採用しています。ヨーロッパにおけるプッシュプル運転は先頭が機関車で、最後尾が制御車のタイプ。日本人にとって、都会のど真ん中を機関車が逆向きに走るシーンは馴染みがないと思います。

 

プッシュプル運転の代表格はオーストリアとチェコで運行されている特急列車「レイルジェット」ではないでしょうか。時速200キロ以上で走るプッシュプル運転は圧巻の一言。客車大国、ヨーロッパでこそ見られるシーンですね。

日本でプッシュプル運転が見られる路線はどこ?

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一方、日本でプッシュプル運転が行われている路線は限られます。2019年5月現在、プッシュプル運転が行われている路線・列車は以下のとおりです。

 

先頭が機関車、最後尾が制御車のタイプ 大井川鐵道井川線(千頭駅~井川駅) 嵯峨野観光鉄道(トロッコ嵯峨駅~トロッコ亀岡駅) JR北海道・ノロッコ号(釧網本線・富良野線など) JR西日本・奥出雲おろち号(木次線)

 

先頭・最後尾が機関車 JR北海道・石北本線の貨物列車

 

先頭が機関車、最後尾が制御車のプッシュプル運転はトロッコタイプの列車がほとんど。大井川鐵道井川線を除くと観光列車になっています。 先ほど述べたとおり、機関車同士のプッシュプル運転はJR石北本線の「玉ねぎ列車」に限られます。YouTubeには「玉ねぎ列車」を動かす機関車のドキュメンタリーが見られますが、極寒の北海道でプッシュプル運転を行う苦労が伝わってきます。

なぜ、日本ではプッシュプル運転が少ないのか

 

それでは、なぜヨーロッパではプッシュプル運転が多いのに、日本では少ないのでしょうか。一つには客車列車に対する考え方があるように思います。客車列車は電車やディーゼルカーと比べると加速が遅く、多くの列車本数が求められる都会では不向き。そのため、日本において客車列車は地方のローカル線で使われてきました。

 

しかし、ローカル線でも合理化が進み、短編成化が進んでいます。客車列車ですと、機関車は必要なので1両編成は不可能。乗客も減っているため、以前のような長編成の客車列車も必要ありません。 このように、日本では客車列車の需要がないため、自ずとプッシュプル運転も見られないわけです。

 

取材・文/新田浩之