旅行番組やパンフレットを見ると、豪華なクルーズ船を使った旅が紹介されています。鉄道の世界ではクルーズ船のような超豪華な列車はあるのでしょうか。答えを先に書くと「あります」。ただし、鉄道の世界では時代によって豪華列車の様相は変わっているようです。
バブルの象徴!ジョイフルトレイン
鉄道旅行を豪華にワクワク楽しむ…このようなコンセプトを最初にもたらした列車はジョイフルトレインではないでしょうか。ジョイフルトレインとはJR各社が臨時列車や団体専用列車のために使うスペシャルな車両を指します。「スペシャル」とは外観もさることながら、車内がまったく一般列車と異なります。
ジョイフルトレインは和風と洋風に大別することができます。和風は基本的に畳敷きとなっており、掘りこたつが設けられています。イメージとしては温泉旅館の宴会場に近いでしょうか。車内にはテレビとカラオケセットが用意されています。 一方、洋風は重厚なソファと絨毯があるのが一般的。中には最後尾からの展望を意識した列車もあります。
基本的にジョイフルトレインは昼間の運用を想定しています。したがって、会社やグループがジョイフルトレインをそのまま貸し切り、社員旅行やグループ旅行を楽しんでいたわけです。 ジョイフルトレインのはじまりは1983年(昭和58年)に登場した「サロンエクスプレス東京」だと言われています。
以前にも座敷風の列車はありましたが、「サロンエクスプレス東京」は本格的なソファが設けられた欧風客車であり、世間の注目を集めました。同列車のデビュー以降、バブル経済の影響もあり、1980年代後半から1990年代にかけて次々と個性豊かなジョイフルトレインが生まれました。
しかし、ジョイフルトレインの全盛期はそれほど長くありませんでした。残念ながら、日本は1992年(平成4年)のバブル崩壊を機に、景気は一気に後退局面に。多くの企業は業績が悪化し、とてもジョイフルトレインを使った豪華な社員旅行はできなくなりました。
また、社会の価値観の変化もあるでしょう。現在は昭和と比べると社員旅行などの集団旅行よりも個人旅行が好まれる傾向にあります。そのため、個人客や小グループをターゲットにした豪華列車の需要が高まりました。
このような理由から、ジョイフルトレインの稼働率は低下。また、ジョイフルトレインの大半は客車のため、終着駅での機関車の付け替え作業など、電車や気動車と比べると手間がかかります。 ジョイフルトレインは加速度的に数を減らし、全国を見渡しても残りはわずか。なかなか、ジョイフルトレインに乗車するのは難しいですが、もし乗車のチャンスがあればぜひ。
現在のトレンドはクルーズトレイン
現在のトレンドはクルーズトレインでしょう。クルーズトレインとはクルーズ船の列車版のような感じです。豪華列車を使ったツアー旅行となっており、出発前に参加者を募集します。
クルーズトレインは寝台列車を基本にしていますが、従来の寝台列車とはまったく別物!室内には高級ホテルのような豪華なベッドはもちろんのこと、お風呂やソファなどが設けられています。本格的なコースが楽しめる食堂車やラウンジカーも連結されており、鉄道旅行を満喫できます。また、列車にある調度品にも注目したいところ。沿線の伝統工芸品が使われており、細部までこだわり抜いた列車です。
現在、国内ではクルーズトレインは3列車(JR九州「ななつ星in九州」、JR西日本「Twilight EXPRESS瑞風」、JR東日本「TRAIN SUITE 四季島」)あり、いずれのクルーズトレインも大盛況のようです。これだけ豪華な列車なので、ツアー代はとても高価!参考までにJR西日本の「Twilight EXPRESS瑞風」の「ロイヤルツイン(2人利用)」で最低でも1人あたり27万円もします。
気軽に利用できる豪華列車も
「とてもクルーズトレインには乗れない…」と思った方もご安心を。日本には気軽に利用できる豪華列車もあります。大阪、京都、名古屋と伊勢志摩を結ぶ近鉄の観光特急「しまかぜ」はその代表例といえるでしょう。
3列配置の座席前後間隔が125cmもある「プレミアムシート」や「和風個室」、「洋風個室」が連結されており、「カフェ車両」では「しまかぜ」ならではの食事が楽しめます。料金は一般の特急よりも高いですが、それでも大阪難波駅~賢島駅間は1人あたり4,950円です。
一方、関東ですと西武鉄道の「52席の至福」が挙げられます。「52席の至福」の自慢はお食事。車内では沿線の素材を活かしたコース料理が楽しめます。また、「しまかぜ」と異なりツアー形のため、心ゆくまで舌鼓を打ちながら鉄道旅行を満喫できます。最も安価な「ブランチコース」で1人1万円です。
文・写真/新田浩之