警告よりも「おもいやり」表示で長居を抑制
トイレ個室が混雑しがちなのは、用をたす時間もありますが、人の心理も影響します。いったん個室に入ってしまえば、外の様子はわかりません。「個室=自分の場所」と錯覚し、どれほど外で待っている人がいるか、気にすることがなくなるからです。
「ドアがノックされれば、個室にいたとしたら、『出ないと』と思ういっぽう、『せかされているようでイヤ』という気持ちになることも。そこで、デジタル技術の力でノックしなくても、トイレの混雑状況が個室内でわかるようにしたわけです」
長時間利用の原因がスマホを見ているケースが多いため、施設管理者から「スマホの電波を妨害すればいいのでは?」という提案もあったそう。しかし、理由は施設管理者が苦慮する「スマホでゲームやSNS」といった目的外利用だけではありません。体調不良などのケースもあり、もし電波妨害をしたら、緊急時にスマホで人に連絡できなくなるリスクを考え、採用を見送りました。
「何よりもトイレに入っただけで、スマホ利用を妨害されたらそれ自体でイヤな気分になってしまう人もいますよね。人の気持ちにもっと寄り添う方法で混雑状況に気づいてもらい、そのうえでどう行動するか自分で選んでほしい。トイレ内にいる人にやさしさを持ったノックを目指して、AirKnockは開発されたのです」
そのため、文章やデザインも警告調にせず、シンプルな混雑状況や滞在時間の表示にとどめました。滞在時間の表示の横には「体調がすぐれないときはゆっくりお過ごしください」という言葉を添えるなど、長居を直接的に責めない表現に工夫しています。
しかし、混雑状況と滞在時間を表示し、あとは利用者の思いやりにゆだねる…そんな仕組みで本当に行列が解消するのでしょうか。
「導入効果は出ています。たとえば、阪急阪神不動産によると、自社が管理するビルに試験的に導入したところ、30分以上の個室利用が47%も減少するなど、長時間利用の抑止効果が確認されました。この結果をもとに、2026年3月より同社が管理する駅や商業施設、オフィスのトイレの個室1857ブースで本格導入されました」
その他の導入現場でも、トイレの平均滞在時間が個室あたり1日45分減少するなどの効果が確認されています。
「AirKnockを導入していただいたある施設では、思わぬ副次的な効果もあったようです。なんと、トイレの詰まりやゴミの放置が減った、という声をいただきました。このシステムによって、利用者に“きちんと管理されているトイレ”という印象が生まれたのではないか、そうした意識が働くことで、トイレを本来の目的に沿って適切に利用しようという行動につながったのではないか、とおっしゃって、私も驚いたことを覚えています。行列解消で利用者にメリットがあるだけでなく、施設管理者や清掃スタッフの負担も軽減されたことはとても嬉しく思います」