「家族は支援者にはなれない」プロだからこそわかった、肉親への苛立ち
── お母さんと2人で殻に閉じこもって生活しているところから自立するというのは、大きなアクションだと思います。精神保健福祉士という「支援のプロ」として働く経験は、自立にどう影響しましたか。
坂本さん:大きかったのは「生活保護」という制度の活用です。僕が援助しなくても母は自立できるとわかっていたので、家を売る決断もできました。親戚からは「お金を集めれば家族で支援できるのでは」と生活保護の受給には反対されましたが、「このままでは共倒れになる」と説得しました。
実際に精神疾患を持つ方やそのご家族の中には、世間の偏見を気にして生活保護を受けることに抵抗がある方が多いです。でも家族が無理に支援しても続かず、破綻してしまうケースをたくさん見てきていて。だからこそ福祉の力を借りることが重要だと実感しています。
──お母さんは坂本さんがケアしてくれていたことに対して、どう感じていたのでしょうか。
坂本さん:振り返れば、母からは感謝されるより、謝られることが多かったんです。「遅くまで話を聞いてくれてありがとうね」じゃなくて、全部「ごめんね」で。当時は感じ取れなかったのですが、大人になって振り返ったときに、母は子どもに負担をかけたくない思いが強かったんじゃないかなって。だからいつも「ごめんね」と謝っていたし、僕に支えてもらうことは本望じゃなかったんじゃないかな。子どもに甘えたいわけじゃないけど、誰かに支えてもらわないとしんどい、っていうのが実際のところだったのかもしれません。
── その後、精神保健福祉士として働くなかで「家族は家族であって支援者にはなれない」と気づいたそうですね。
坂本さん:職場では利用者さんに冷静に接することができても、肉親である母にはどうしてもイライラし、無視してしまうこともありました。支援者として自分を採点するなら「失格」です。でも、プロとして経験を積むうちに、「家族は家族であって、支援者にはなれない」という当たり前の事実に気づきました。第三者なら言えること、家族だから言えること。その役割を分けることが、替えのきかない「家族」という関係を守る唯一の道だったんです。それに気づいてからは、気持ちが軽くなりました。