幼少期に知った亡き父の教え「栽培狩猟」

── 現状で打てる手として、クマを猟銃で駆除する以外に人の生活や生命を守っていく方法はないのでしょうか。

 

杉本さん:もちろん、対処療法としては街中や人里に現れれば、人命に関わるので駆除することは必要ですが、解決するにはそれだけでは不十分なんです。大前提として、山が動物にとって生活しやすい場所に戻すこと。つまり、動物たちで食べられるエサがたくさんある状態です。そうすれば、人里や街中にわざわざ降りてこない。だからこそ、山が豊かであることが大切なんです。

 

── どうやって動物が暮らしやすい山にしていけばいいのか…対策はあると思いますか?

 

杉本さん:猟師をしていた私の亡き父が行っていた、栽培狩猟という考え方があります。幼少期に父が山鳥を撃ちに連れて行ってくれたことがありますが、撃ち落としたら、すぐに父は血抜きなどの処理をした後に、土に穴を掘って何かの苗木を植えていたんです。何の木だったか覚えていませんが、山鳥が好きな実がなる木だと説明してくれました。それを植えておいて時間とともに木が育って実がつけば、山鳥が食べにくる。猟師としては同じ場所にくれば、山鳥を狙い撃てる、という内容だったと記憶しています。仮に実が地面に落ちて山鳥が食べられなくなっても、四足動物がその実を食べることもできる、と。

 

私はその経験から動物を狩猟することが、自分たちが食べるためだったり、食品用として売って稼ぎにしたりするだけではないことを教わりました。動物を獲るためには、彼らが生活できる山を作っていく努力が、捕らえる側の人間にも必要なことだと気づかされたのです。

 

── 生きていくために人間だけ都合よく生活をすればいいわけじゃない考え方ですね。

 

杉本さん:私も猟師になってから同じように実践していました。ただ、2010年代前半、実のなる木が減っていったことに、あるとき気づきました。じつは、2009年の政権交代とその諸事情によって、実のなる木が大量に伐採されてしまっていたんです。そこで、近隣の人たちに声をかけて、できる限りドングリ(紅葉樹でもあるクヌギの実)を拾い集めてもらい、それを森に植える活動を始めました。それ以来、活動自体は10年以上続けています。ほかにも、クルミの木を100本を植えたり、栗の木は畑に植えて、柿の苗を準備するなど、先を見据えて対策を練っています。