偶然見つけた「奇跡の木」を全国へ

── たしかにそれなら、杉本さんの近隣の山には動物たちに必要な実がなり、人間の生活エリアにまで降りてきて、被害を及ぼすことは減りそうです。

 

杉本さん:私たちの地域だけでは意味がないと思っています。いまや全国的な問題なので、なんとかしないといけないとは考えていました。

 

植樹の活動とは別に、たまたまなのですが、昨年、猟師をしている孫が近隣の国道246号沿いを車で走行中、ドングリを踏んだ音がしたというんです。路肩に車を停めてあたりを確認したところ、道路沿いに生い茂る木々の中で、たくさんドングリが落ちていた、と。

 

「爺ちゃんも来て見てくれよ」と頼まれ、実際に現場に行くと、ひとつの場所にだけ大量にドングリが落ちていて。何本もある木々の中でそこに立つ数本のクヌギに実がなっていた。しかも、芽が出ていたり、実がなっていたり、年月の経過ごとに実が成長している姿がうかがえたんです。専門家ではないのであくまで私の仮説ですが、寒暖差や環境に左右されずに育つ、「奇跡」のようなクヌギだと思ったんです。

 

いまは集めたドングリを自宅の畑にまいて、苗木を育てています。苗木を希望する地域の方がいれば、お譲りもしています。周辺の山には、クヌギの苗木約1400本などを植樹しました。次々と育ってくれるこのクヌギが全国に普及して動物の胃袋を満たしてくれれば、クマだって山から降りてこなくなるのでは、と期待しています。

 

── そこまで思い、行動できるのはなぜでしょうか。

 

杉本さん:猟師は山と共生することで、生きていけます。山やそこで生活する動物のことは、猟師が先頭にたって考え行動していかないといけません。動物の食べるものが育たない山にしてしまったのは人間のせい。そこはなんとかしていきたい。猟師は豊かな山づくりをすればこそ、充実した猟に臨めるわけですから。全国でこういった活動が広がっていけばいいと思っています。

 

取材・文・撮影/西村智宏