法改正で緊急銃猟が解禁され、クマやイノシシが市街地などに侵入した際、市町村長の判断で猟銃を使った駆除が認められるようになりました。「もちろん、人の命を守る意味ではとても大切です。でも、それだけではクマ問題は解決しないんです」。そう話すのは、猟師歴70年近くになる杉本一さん(88)。神奈川・山北町の山奥で、地道に続けている活動があると言います。そして、クマ問題を全国的に改善すべく「奇跡の木」の普及活動も行っているそうです。

クマが山で食べるものがなくなっている

── 杉本さんは長年猟師を続けられています。近年、クマの出没が増えているという実感はありますか? 

 

杉本さん:昨年は神奈川県内で122件、今年も57件(11月4日の速報値)の目撃情報が寄せられているという話ですが、その数字通りではないでしょう。山里に暮らしていて、しょっちゅう見かける人は、いちいち県に連絡するわけじゃないんですよ。ひっかかれたりして大きな被害にあえば別でしょうけれど。実態はもっと多いと思います。うちの敷地内でも何度か見ていますよ。

 

── そもそも、なぜこれほどまでにクマの出没が増えたと思いますか?

 

杉本さん:今年これほど被害が多くなっているのは、野生動物が食べる木の実が大幅に減っていることが大きな要因だと思います。山北町では林業関係者や大工など集まって勉強会をしているのですが、植物の花が咲き、芽が育つかどうかは前年の秋の気候に左右されます。近年は9、10月でも気温が高すぎて暑い。だから、芽がでにくくなっているのかもしれないと話したことがあります。ただ、正確なことはわかっていません。

 

また、山を取り巻く環境の変化も影響しているんでしょう。昔は薪を使って皆生活をしていました。ご飯を炊くのだって、お風呂を沸かすのだって薪を使っていた。でも、いまは電気・ガス。山の木を切らなくなって木が減らない。とくにスギやヒノキといった大きな木は伐採されず、どんどん太く高くなっていく。そして、大きな木はほとんど動物が食べられるような実をつけない。

 

一部では実がなる大木があるけれど、ブナなどは山の高いところでしか育たない。しかも、毎年、実がなるわけでなく、ある年に実がなったら次は2、3年かかる。ほかの都道府県によっては、ブナさえない山もありますから。実のならない木が山全体に増えてしまった。だから、多くの動物にとって、山に十分なエサがない状態が続いているわけで、人里に降りてくるしかなくなっている。

 

そもそもの話として、私のいる山では、あるときから急増した建築用材の需要に応えるための拡大造林政策がとられ、スギ・ヒノキが大規模に植栽されました。しかし、その後、林業が衰退し、保育作業は放棄されてしまった。そうした人工林ほど厄介なものはありません。人工林が密集すると日がささないから、若草が育たずに動物のエサは乏しくなります。山の中で生きる動物の生存基盤さえ破壊してしまったんです。