社会の変化や娘の成長を感じながら

佐野有美
夫と当時3歳の娘と家族で外食したとき。

── そうした姿を動画でも発信されていますね。応援の声が多く寄せられるいっぽうで、心ない言葉もあったとか。

 

佐野さん:動画に対して「障害者は子どもを産むな」といったコメントが届いたこともありました。「小学校に行ったらいじめに遭う」「将来はヤングケアラー決定だね」など、心に刺さる言葉が続いて…。最初はとてもショックでした。

 

でも、子どもはどんどん成長していく。落ち込んでばかりもいられないと思って、「よし、言葉じゃなくて行動で見せよう」と決めたんです。実際の育児の様子を動画にしてアップすることで、「こうしてやっています」と伝えるようになりました。

 

── 言葉ではなく「行動で見せる」。お子さんが保育園に通い始めてからも、さまざまな工夫をされているそうですね。

 

佐野さん:子どもが嫌な思いをしないように、できることをしています。たとえば入園説明会では、保護者のみなさんに「私はこういう障害を持っていますが、送迎のときは安全に十分配慮しますので、娘とは変わらず仲よくしてもらえたらうれしいです」と伝えました。

 

私が子どものころは、障害者に対する偏見がまだ強くて、車いすを見ると「怖い」「見ちゃいけない」といった反応が多かったんです。でも今は違います。小学生が「すげえ、あれカッコいい!」って言ってくれる時代になった。親御さんが「そうだよ、カッコいいよね」と説明してくれることで、子どもたちも自然に受け入れてくれる。社会が少しずつ変わってきたなと感じます。

 

── 娘さんが保育園の年中のころ、園の友達に「ママの手がないの?」と聞かれたことがあったそうですね。

 

佐野さん:そうなんです。娘が「そういうこと言ったらママが悲しむからやめて」と言ってくれたと聞いて、本当に驚きました。自分が傷ついたではなく、「ママが悲しむから」という言葉が出てきたことに、優しさと成長を感じました。

 

翌日、私は園のお友達全員の名前を覚えて、一人ひとりと話すようにしました。子どもたちに私を知ってもらえば、怖がったり偏見を持ったりすることもなくなると思ったんです。

 

── どんなふうに接していったのでしょう。

 

佐野さん:「おはよう」「かわいいね」といった何げない会話から始めました。少しずつ距離が近づいていくうちに、子どもたちが私を見かけると駆け寄ってきてくれるようになって。娘の友達のひとりに「なんで手がないの?」と聞かれたときも、「いつもありがとうね。実はね、足で絵が描けるんだよ」と話してみたんです。

 

その子が「キティちゃんが好き」と教えてくれたので、「じゃあ今度、お絵描き勝負しようか」と言ったら、すっかり仲よくなりました。

 

── 自分から関わることで、娘さんを守っているんですね。

 

佐野さん:そう思います。知らないことって、どうしても怖く感じてしまうものですよね。だから「知ってもらう」ことがいちばんの近道だと思っています。理解を得るためには、自分から近づいて見せていく。そうすれば娘が嫌な思いをすることも減る。私にできる守り方は、それしかないと思っています。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/佐野有美