生まれたときから両腕と足がない、四肢欠損症の佐野有美さん。恋愛や結婚は無理と諦めていた佐野さんですが、今の夫と出会って子どもを出産し、1児の母に。しかし、障害があることで子育ての壁にぶつかったこともあったそうで── 。

「ひとりの命を育てることがどれだけ大変か」

佐野有美
娘が生後間もないころ、抱っこ紐と専用の袋の中に娘を包んで

── 先天性四肢欠損症という障害を抱えている佐野有美さん。2017年に結婚し、現在は5歳の娘の母として子育ての日々を送っています。SNSでは、足だけを使って育児をする様子を発信し続けていますが、そもそも「子どもを持つ」ということについて、当初はどのように考えていたのでしょうか。

 

佐野さん:私と結婚してくれた夫や、お互いの親のためにも、自分たちの子どもを見せたいという思いがありました。もちろん夫婦としても「2人の子どもを授かりたいね」とも話していました。ですが、最初は私の両親の反対にあったんです。「ひとりの命を育てることが、どれだけ大変なことかわかるの?」と強く言われました。

 

そんなとき、友人から「どうやって育児ができるかを考えればいいんじゃない?これまでもいろんな困難を乗り越えてきたんでしょ」と言われてハッとしました。そこから、自分にできる育児の形を探し始めたんです。

 

── ご両親の反対をどう乗り越えていかれたのでしょう。

 

佐野さん:ヘルパーさんや子ども支援センターなど、さまざまな機関に相談に行きました。「できるだけ自分の力で育児をしたいのですが、どうすればいいでしょうか」と。すると、ヘルパーさんの支援を受けながら進める方法を提案していただいて。そこから少しずつ準備を整えていきました。

 

母には「迷惑はかけないから、どうか許してほしい」と伝えました。姉からは「責任を持ちなさいよ、命なんだから」と念を押されましたが、最終的に理解してもらうことができました。そうして妊活を始め、病院の先生から遺伝性はないとの言葉をいただき、約1年で子どもを授かりました。出産は全身麻酔での帝王切開。無事に元気な子を産むことができました。

 

── 出産前から、かなり入念に準備を重ねていたんですね。

 

佐野さん:妊娠してからは、支援センターの方が赤ちゃんと同じ重さの人形を貸してくださって、生まれる直前までオムツ替えの練習をしていました。どうすれば足でうまくできるかを試しながら、助言もいただきつつ工夫して。

 

哺乳瓶も、自分の足で持てるものを探して夫と一緒にお店を回りました。ただ、ミルクを作るのはどうしても難しかったので、最終的に母乳で育てることにしました。

 

できる限りの準備をして臨みましたが、いざ出産してみると「もっとやってあげたい」という気持ちがどんどん湧いてきて。抱っこ紐を自分で装着できる方法を考えたり、服の着替えや寝かしつけを工夫したり。ヘルパーさんがいなくても、ひとりでできることが少しずつ増えていきました。