生まれたときから手足がない先天性四肢欠損の佐野有美さん。恋愛は諦めていたという佐野さんが、現在の夫に出会って結婚を決意。しかし、初めて夫のご両親に挨拶に行ったときは人生でいちばん緊張したそうで、ネガティブなことばかり考えてしまったといいます。

自分には恋愛をする資格なんてないと思っていた

佐野有美
夫と交際しているときの穏やか表情の佐野さん

── 先天性四肢欠損症という障害を抱えながら、現在、1児の母として子育てに奮闘する佐野有美さん。過去には自身が抱える障害が負い目になり、「恋愛に対してずっと前向きになれなかった」といいます。恋愛にどんな気持ちを抱いていたのでしょうか。

 

佐野さん:「恋のようなもの」はいっぱいしてきたんです。惚れっぽいので優しくされたら「カッコいいかも…」と(笑)。でも、高校生のとき、メールで仲よくなった男の子と実際に会ったら、私を見て素通りされたことがあって。事前に障害のことは話していたけれど、あとから「ごめん、やっぱりムリだった」と。それがものすごくショックでした。「こんな体を受け入れてくれる相手なんていないよね」とすっかり自信をなくし、今の夫に出会うまでは「自分には恋愛する資格なんてない」と思いこんでいました。

 

── それはつらい経験でしたね。その出来事がトラウマのようになって、恋愛に踏み出せなくなってしまったと。

 

佐野さん:周りの恋愛相談には「こうすれば?」と言えるのに、自分のこととなると足がすくんでしまうんです。正直、なかには受け入れてくれる男性もいたんですけど、その優しさが「障害のある私を助ける自分に満足しているんじゃないか」と感じてしまうことが多くて。電動の車いすなのに「僕が押すよ」とか「ごはん、食べさせてあげる」と言われるたび、「やっぱりみんなと同じように恋愛できないのかな」って。もちろん善意だとわかっているし、ありがたいんです。でも、ひとりの女性ではなく「支援の対象」として見られている気がして、本当の自分が出せなかった。相手の優しさに触れるほど、障害を強く意識してしまう自分がいました。

 

── そんな気持ちを変えてくれたのが、今の旦那さんだったのですね。

 

佐野さん:最初からすごく自然に接してくれたんです。別にハンデを持った人に慣れているわけでも、福祉に携わってきた人でもないのに、必要以上に私に構わないし、特別扱いもしない。「大丈夫?」と聞かれた記憶がほとんどないくらい。ただ、困っているときには何も言わずに手を貸してくれる。その距離感がすごく心地よかったんです。

 

── そもそもどんな出会いだったのでしょう。

 

佐野さん:友人の紹介で知り合い、やり取りを重ねるうちに「いい人だな」と思うようになって。でも、障害のことをどう伝えるべきか悩んでいたら、友人に「それは自分の口から言わなきゃ一歩進めないよ」と背中を押されたんです。とはいえ、過去には障害を理由に関係が終わった経験があったので、怖さもありました。そこで、全身が写った写真や生活の様子を詳しく説明して「ムリだと思ったらここで終わりにして構わないです」と長文のメッセージを送ったんです。

 

すると「知ってるよ」と返ってきて。「自分から言うことじゃないと思ったから」と言われて「この人は今まで出会った人たちと違うかも」と感じたんです。