「お荷物」だと思っていた自分にも役割がある

── 厳しい言葉でも、前向きに受け止められたのはなぜでしょう。

 

佐野さん:「そんなこと言われて嫌じゃなかった?」とよく聞かれます。でも私はそうは感じなかった。先生は本気で私と向き合ってくれていました。優しくしておいたほうが無難、という態度ではなく、心から「変わってほしい」と思っての言葉だった。だからこそ、まっすぐ心に届いたんだと思います。

 

そこから私は変わりました。手足は使えなくても、声で仲間をサポートすることはできる。「今のタイミング、もう少し手を上げたほうがいいよ」とか、「ここちょっとズレてたよ」と声をかけるようになったんです。すると仲間が「ありがとう、有美、見てくれる?」と頼ってくれるようになって。それがすごくうれしかった。

 

「お荷物」だと思っていた自分にも役割があるんだと感じました。感謝の気持ちを持つこと、頼られることのうれしさを、身をもって知ることができました。

 

この先生と出会っていなかったら、私はきっと今でも遠慮しながら生きていたと思います。チアとの出会い、そして先生との出会いが、今の生き方を形づくった。まさに人生の転機でしたね。

 

 

チアとの出会いによって、小学校時代のトラウマから自分を解放し、人生が大きく変わったという佐野さん。しかし、その後も大きなハードルが立ちはだかります。過去に傷ついた経験から、どうしても恋愛に対して臆病になっていたんだそう。そんな佐野さんを変えてくれたのが今の夫でした。当初は佐野さんが傷つく姿を見たくない、夫にも迷惑をかけたら申し訳ないと、佐野さんのご家族は結婚に反対していたそう。しかし、自分ひとりでも暮らしていける姿を見せたことで、家族を納得させ、無事に結婚に。現在は1児の母として子育てに奮闘しています。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/佐野有美