「いや、ムリですよね…」に顧問の先生が即答で

── とはいえ、現実を考えると、ためらいもあったのでは?
佐野さん:もちろんです。運動部ですし、チアリーディングは手足を使う競技です。頭では「そんなのムリに決まってる」と思っていました。そんな私の気持ちを、顧問の先生が察してくださったんです。「入りたいの?」と聞かれて、「いや、でもムリですよね…」と答えたら、「あなたのいいところって何?」と聞かれて。戸惑いながら「笑顔と元気です」と答えたら、「OK、それなら大丈夫!明日からおいで」と即答されたんです。驚いて「え、でも踊れませんよ?」と言ったら、「入りたくて見に来たんでしょ。じゃあ、いいじゃない」と。こうして入部が決まりました。
── その先生、いっさいの迷いがないのがすごく印象的です。「負担になる」とか「面倒を見るのが大変そう」ではなく。
佐野さん:特別な経験があったわけではなかったと思います。でも、本当に偏見がない方で「やる気があるなら問題ない」とほかの子と同じように見てくれました。特別扱いもいっさいなしです。
それまでは「ムリしないでね」と気をつかってくれる先生が多かったんです。でもチアの先生は違いました。「できないならできることを探しなさい。あなたも仲間のひとりなんだから」と。私だけ「じゃあいいよ」とは絶対に言わない先生でした。
── その接し方を佐野さんはどう感じたのでしょう?
佐野さん:うれしかったです。初めて「対等に扱ってもらえた」と思いました。いい意味で厳しく、公平に接してくれる先生でしたね。
── チアリーディングというと、手足を使った激しい演技のイメージがあります。佐野さんはどんなふうに関わっていたんですか?
佐野さん:最初は見学するだけでした。それだけでも元気をもらえて、仲間の姿を見ているだけで楽しかったんです。ただ、みんながどんどん成長していくうちに、「自分だけ何もできていない」と感じるようになって。次第に孤独感を覚えました。そんなとき、先生が声をかけてくれたんです。「有美。今、楽しくないでしょ」と。私は「楽しいです」と言えず、うつむいてしまいました。
すると先生はこう言ったんです。「ちょっと厳しいこと言うけど、有美は一生この体のままで手足が生えてくるわけじゃない。今はご両親がいるけど、将来はひとりで生きていくことになるかもしれない。だから、できることを見つけていかなきゃいけないんだよ」。そして、「有美には手足はないけど、口があるし声がある。だったらそれを生かせばいい」と。ハッとしました。
それまで私は自分のことを「迷惑をかける存在」だと思い込んでいた。でも、声でみんなを支えることはできるかもしれない。そう気づかせてもらったんです。