父から言われた言葉が人生の教訓に
── そんななかで、気持ちを切り替えるきっかけになったのは、どんな出来事だったんですか。
佐野さん:きっかけは父の言葉でした。「なんで友達が離れてったか、わかっとるよな?」って言われて。「わかってる、自分が間違っていた」って気持ちを正直に明かしました。父は「人にされて自分が嫌だと思うことはもう2度とするな。感謝の気持ちを持って生きていきなさい」と言われたんです。その言葉は、今も私の人生の教訓になっています。母にも謝り、2人で泣きました。そこからは、どうすれば友達と関係を修復できるか、家族で話し合いました。「有美の明るさはそのままでいい。でも傲慢になって自分勝手になるのは間違ってる。好きでこの体に生まれてきたわけじゃないけれど、みんなに支えてもらうことが多いのはわかるよね」と。
翌日、友達に心から謝りました。「今までわがまま言ってごめんね。いろいろ支えてくれてありがとう」。そして「こんな私でも、これからも友達でいてくれる?」と伝えました。すると「私たちもごめんね」と言ってくれて、また笑い合えるようになったんです。
よく「障害を持ってるから仲間はずれにされた」と思われがちですが、みんなが勝手に離れていったわけではなく、私の言葉や態度が原因だったと思っています。だから私は、いじめられたと思っていません。むしろ、自分のきつい言葉で周りを傷つけてしまった側だったかもしれません。
── その気づきが、今の生き方にもつながっているように感じます。あの経験は、佐野さんにとってどんな意味を持っているのでしょうか。
佐野さん:こういう経験を、まだ心が素直な子ども時代にしておいてよかったと思っています。感謝の気持ちがどれだけ大切なものかを痛感したし、ピンチの裏には幸せに導くヒントが隠されていることも知りました。あのときの経験があるから、今、心から「ありがとう」と言えるんです。
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傲慢だった自分に気づけたことはその後の人生の教訓にもなったという佐野さんでしたが、この経験はその後の学校生活に大きな影響を与えます。今度は周囲に「申し訳ない」という気持ちが先に立ってしまい、次第に引っ込み思案になっていったそうです。
笑顔を忘れた時期もありましたが、高校入学後にチアリーディング部に入ったことが転機に。顧問の先生に「あみには手足はないけど、口があるし声がある。だったらそれを生かせばいい」と言われたことで、自分の存在意義を見つられたことが、今の佐野さんの生き方にもつながっているといいます。
取材・文/西尾英子 写真提供/佐野有美