離職の食い止めに繋がって手応えを感じ

── 介護事業の人材不足の解消にひと役買ったとうかがっていますが、どのような取り組みをしたのですか。

 

永井さん:まさに私が社長から提案されたような、週休3日の正社員を掲げて採用を行いました。当時、リーマンショックの前で、ものづくりの企業さんに人材が流れていってしまっていたので、人材確保のひとつの手段として週休3日の提案を行ったんです。ただ、実はあまり内部評判はよくなくて。「給料を下げてまで週休3日で働きたい人はいないだろう」「そこまでしなくてもいいのではないか」というような声が社内からは聞かれたのですが、実際には応募者が増えていったので、週休3日の需要は確実にあると感じ始めました。

 

週休3日の手応えを感じたのは、採用が増えたことだけではなく、離職を食い止めることにも繋がったときです。週休2日で働いている子育て中の方から「仕事を辞めたい」と打診された際に、「3か月間、週休3日で働いてみるのはどうですか。それでダメだったら考えましょう」と提案しました。すると、2か月くらい経つと「私、週休2日で戻って働きます」と残留を決めていただけることが多かったです。週休3日の働き方が離職のセーフティネットとして機能し、「週休3日は就業者にも企業にもどちらにも有益な働き方だ」と確信しました。お給料の面では、週休3日の方は週休2日の方の8割ですが、全体の4分の3ほどが、週休3日を選択するようになりました。離職率は6年間で、それ以前の半分以下に減りました。

 

── 週1日、休みを増やすことがなぜ離職を食い止めることにつながるのでしょうか。

 

永井さん:みなさん思いあたる節があると思うんですけど、人のやる気や活力は、働き続けると減っていきます。それに、活力が低下したときに限ってミスやトラブルが起こりやすいです。そうすると働くモチベーションが減って、「辞めたい」という気持ちにつながります。もちろん、週休2日で働いても活力が低下しない人もいるとは思いますが、そうではない方はシンプルに休みを増やせば回復します。

 

それに、休みが多い会社だということが、入所希望者を増やすきっかけにもなりました。利用者さんのご家族から「職員の方の希望に合ったお休みを取れるのなら、きっと余裕があって優しくしてもらえますね」と。働き方が、介護の質の差別化や付加価値にもつながることがわかりました。

 

── このあと、週休3日の魅力を世間に広めるべく起業されたんですね。

 

永井さん:現場を離れてしまった罪悪感は起業後の今も消えません。介護施設の施設長として働き、この仕事が非常に向いていると思っていました。利用者の方やスタッフとの信頼関係も生まれていたのですが、世の中の不条理を少しでも変えたいという思いが強くなり、起業に至りました。社会の皺寄せは、つねに弱い者に向けられます。私は娘が4人いるのですが、子育てで感情的に上の子を叱ることがあると、親が見えないところで下の子に当たっているのを見たことがあります。おそらく職場でも、経営サイドが従業員に厳しくあたれば、介護や福祉施設でしたら、おのずと利用されている方に矛先が向かってしまうでしょう。

 

こういったことは絶対に起きてはならないという思いもあって、社会全体を少しでも変える方向にシフトしようと。ちょうどいい働き方というものは人によって違っていて、働く人が幸せな環境を作ることがクライアントのためになり、働く人の環境を整えることこそ企業の責任だと考えています。