かつてはお叱りを受けることが多い学校だった
── 立花高校は、受ける授業も自分で決めて、内容もユニークなものが多いそうですね。
齋藤校長:子どもたちが自分の意思で学びたいと思うことを重要視していて、授業も選べる幅がすごく広いです。金曜の午前中が体験型授業で、4コマ続きで活動をしています。パソコンや農業など、分野は多岐に渡るのですが、本校に来られる方がいちばん驚くのは、授業中に玄関で洗車の授業をしていることです。教員の車や、お客さまの車も許可をいただけたら洗います。知っている方は、金曜の午前中を狙って来校するくらいです。生徒さんから「こういう授業をしてみたい」というリクエストを受けて行う授業なのですが、車好きな子は、車に触れているだけでモチベーションも上がりますし、人にも感謝されますね。
学校で、地域の方が参加できる子育てサロンを開催しているので、ママさんたちが子連れでやってきて、生徒さんが一生懸命作ったおもちゃで遊ばせている間に、ママさんが救命救急の講習を受けることなどもあります。同世代だけではなく、幅広い世代の方と縦方向に接することができるような活動を増やしてから、生徒さんたちへのお褒めの言葉が非常に増えました。以前は、お叱りの電話を受けることが多い学校だったんですよ。

── どのようなお叱りの内容だったんですか。
齋藤校長:ピアスや金髪など身なりが自由なので、見た目から勝手なイメージを抱かれてしまって「きっと悪い子だろう」と思われていたことが多かったようです。「立花、変わりましたね」とみなさん言ってくださるんですけど、変わったのは生徒さんではなくて、みなさんの見る目が温かくなったんだと思います。私から見ると子どもたちは何も変わっていません。実際に生徒さんと交流してみたら、「みんないい子で、かわいいですね」と言ってくださるんですよ。
来校するお客さまの案内も生徒さんに任せているんですが、生徒さんたちは責任をもってしっかり案内しています。どういうふうにするか、こちらがその方法をいちから教えるのではなく、「思うようにやってごらん」と背中を押してあげるのが正しい回答なのかなと思って任せているのですが、お客さまは「立花の生徒さん、素敵でしたね」と言ってくださいます。子どもはもっといい意味で、放っておいていい存在です。大人が介入しすぎてややこしくなっているケースが多いと感じますね。
── 社会で苦労しないようにと、ついつい手をかけてしまう親御さんの気持ちも理解できます。
齋藤校長:子どものうちは、未成熟であることが許される唯一の短い時期なのに、失敗させたくないという親御さんの余裕のなさが見てとれます。社会に出たら、時間を守らなきゃいけない、だから今から守らせる。時間は、本人の意識が変わればいくらでも守れるようになりますよ。意外とぐうたらな子がきちんとするもんです。うちの生徒さんたちも、アルバイト先ではしっかり敬語を使って現場を仕切っている話を聞きます。「きちんとしなさい、しっかりしなさい。そんなことでは社会に出たら…」と、社会に出てない子どもにこの言葉をかけること自体がナンセンスだと思います。
単なる子ども同士のケンカに、親御さんや学校が介入していくことも多いですね。放っておけば子どもたちが乗り越えていくか、あるいは問題とつき合っていくなかで乗り越えられるものがあるのに、早く解決してほしいがために大人が入って、ぐちゃぐちゃになってしまう。大人が真剣に受け止めすぎてしまう。いい言い方をすると、それだけ子どもに一生懸命というわけです。それに、義務教育という言葉にとらわれすぎて、「義務教育なんだから学校に行かなきゃいけない」というプレッシャーを感じすぎている方が多いと思います。
── 子どものころから学校は行かなくてはならないものと思ってきました。
齋藤先生:義務教育の期間は、親はお子さんに教育を受けさせる義務があって、子どもは学ぶ権利があるという意味です。学校に行けなくなったら、学校以外で学ぶ環境を用意してあげれば、親御さんの義務もお子さんの権利も満たされると思っています。学ぶ権利を保障されている子どもたちの権利を奪ってしまってはいけません。家でもいいですし、もっと学校以外で学べる選択肢を作るべきで、不登校になった子どもの学びを止めてしまうことはあってはならないと思っています。
── 保育園や幼稚園には通えていたお子さんも多いと思うのですが、なぜ小学校以降に不登校が増えてしまうと思いますか。
齋藤校長:「いよいよ小学生だね」とか、「いよいよ中学生だね」という、節目に聞かれる「いよいよ」という言葉が不要だと思うんです。立派な大人に育てようとしすぎて、子どもらしさをどんどん犠牲にするような声かけが、子どもにプレッシャーを与えてしまっていると思います。お子さんが学校に行けず悩まれているご家庭は、無干渉でネグレクトというケースは少なく、「お母さん、今まで大変やったね。きつかったね」というひと言が響くご家庭が多いなと思います。その背景には、子育てに対してプレッシャーをかけている社会があると思います。小さいころからできないことばかり指摘されていては、人に相談もしにくいですね。
学校に行けなくなると、ご両親はなんとかして行かせたいと思う方が多いのですが、子どもたちが抱える理由はさまざまです。友人関係のトラブルやいじめ、先生と合わない子もいますし、学校自体が嫌だったのではなく、いちばん信頼している親の元を離れたくなかったという子もいました。子どもたちが起こす行動は、すべて大人に問題を突きつけています。現状の学校が、社会が、変わるべき時期にとっくに来ているのだと思います。
取材・文/内橋明日香 写真提供/学校法人 立花学園立花高等学校