学校以外の環境でも幸せな未来は描ける
── 毎年、不登校の子どもが増えていることがニュースになりますが、ここまで増え続けてしまう原因はどこにあると思いますか。
齋藤校長:不登校というものが昔より市民権を得ていて、選択肢のひとつとして認識されているということがあると思います。そして原因は何より、いつまでも体制が変わらない学校と社会が大きな原因だと考えます。日本のどこかで災害が起きて、被災した方が避難所に逃げていきますよね。この現象を不登校にたとえるとするならば、その子たちを学校に戻そうとする動きは、復旧活動が何も行われていない被災地に無理やり戻そうとすることと同じです。とても暮らしていける場所ではないから逃げてきたのに、同じ場所に帰すことが最善の方法だと思いますか。
子どもたちを守るためには、逃げてきた場所の居心地がいいこと、それと並行して被災地の瓦礫の撤去や復旧、新しく暮らしていく場所の整備が必要です。子どもたちを苦しめてしまう原因が改善しない限り、逃げたがる子どもが増え続けるのは当然の結果だと思っています。問われているのは、この社会の考え方だと強く思っています。学校に行かなかったら不幸せになるとか、絶望的な将来が待っているという思い込みをなくしていきたいです。学校以外の環境であっても、学びを続けていれば幸せな未来が描けるということは伝え続けていきたいです。自宅で学ぶホームスクールも選択肢として当たり前になるといいですね。

── 本日もお忙しいなか取材の時間を割いていただきましたが、齋藤先生は講演などに呼ばれる機会が多いそうですね。
齋藤校長:正直、校長としては学校になるべく長くいて生徒さんたちと話したいので、複雑ではあります。でも、これは自分の社会的な使命だとも思っています。ある女子生徒さんから、「校長ちゃん、また今日も講演行くと?無理しちゃいかんよ。たまには早く帰りーよ」と声をかけられました。続けて「いつもうちたちのこと、話してくれてありがとうね」と言われたんです。
「校長ちゃんが話してくれるけん、うちのお母さんは『一生思い出したくないと思っとった過去も、あれはあれでよかったって思えるようになった』って言いよったと。せっかく私たちが流した涙やから、今、涙を流してる人にちゃんと届けてきて。大丈夫だよって言ってあげて」と。あれから10年が経つのですが、この言葉があるから、今日も自分を奮い立たせています。ひとりでも多くの人の心を救える機会になるのであれば、よしもうひと頑張りと思える私の原動力になっています。
── 2学期が始まりましたが、夏休みなど長期の休み明けに不登校になる子どもが増えると言われています。
齋藤校長:やはり長く休んでしまうと生活のリズムが変わってきてしまうのが影響すると思います。学校って、行かなければならないと思っているからしんどくなるんですよね。うちは始業式に必ず学校に行かなくちゃならない法律なんてこの国にないぞと伝えています。「来られる子はおいで。そうじゃない子は、ゆっくり休み続けてよかよ」と声をかけると、意外とみんな来るんですよ。
本校に、ちょうど夏休みが終わる前の8月31日にテレビの取材が入った際、男子生徒さんがインタビューで「学校に行くことは諦めていいから、生きることは諦めないで」と答えていました。17歳の少年の言葉です。凄すぎると思いました。学校に行かないというのは自分の命を守るための勇気ある決断だから、決して逃げていると思わなくてもいい。逃げることも、ときと場合によってはすごく大事だから、自分の命を守ることだけ考えたらいいよって。この国は「不登校」という言葉まで作って、学校に行くのが当たり前というバイアスを社会全体にかけてしまっています。学校に行かないと決めた子どもたちに対して、その勇気を認めてもらえる社会であってほしいと願っています。
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齋藤校長は、未成熟であることが唯一許される子どもの時期に、社会に出たあとに失敗してほしくないと我が子を心配しすぎる家庭が多いと話します。自立とは、「ひとりでなんでもできるようになること」ではなく、助けてほしいときに人に頼れる力で、大人も人と助け合って生きていることを忘れないでほしいと語る齋藤校長。不登校をはじめとする子どもの行動には意味があり、すべて大人と社会に向けた問題提起であることを忘れてほしくないと語ります。
取材・文/内橋明日香 写真提供/学校法人 立花学園立花高等学校