目的は「泳法を身につけること」だけでない

── お金の面以外では、どんな問題があるのでしょうか?

 

福嶋さん:プールの授業が減る理由の2つ目と3つ目は、教員に対する2つの負担が問題になっています。1つは熱中症のリスク管理の難しさです。暑い日でも「水の中だから暑くない」と思いこんでも、実際には気温の高い日のプールの水はぬるま湯に近い水温となる上、プールは激しい運動をともなうので熱中症になりやすいリスクがつねにあります。プールに入れる気温は学習指導要領に明記されているわけではなく、文科省が目安として通知しているのは環境省の暑さ指数(WBGT)ですが、各自治体が予算で購入するWBGTの測定器をよく見ないで、「体感」で実施を決めるケースもあるそうです。プール授業の時数達成のため、実施するといった理由も影響しています。

 

もう1つは、安全面などの大きなリスクを抱えながら授業を進めなければいけない点です。昨年、高知県内の小学校で4年生の児童がプールの授業中に溺れ死んでしまった事故がありました。安全対策や監視体制が不十分で、溺れる姿に気づけなかったと報道されています。

 

学校でみかけるプールシャワー

── プール以外で死亡事故が起きてしまう授業はあまりない印象です。それだけ教員にとっても大きなリスク管理が必要になり、負担もかかるわけですね。

 

福嶋さん:とくに小学校の教員は水泳の知識や指導力が担保されていない方も多く、児童の命を預かることへの精神的な負担も大きいはずです。現在、プールの実技授業を民間の水泳指導員に委託する動きもみられますが、教員免許を持たない人間が授業を行うのも本来はダメなわけで…。仮に泳ぎに関する指導ができても、「水の事故を防ぐ」「水に親しむ」などの学びの側面もある授業を行えるとは限らず、「民間委託をすれば解決」というのは個人的にも疑問が残ります。

 

── そもそも、プールの授業が日本で行われるようになったきっかけはあるのでしょうか? 

 

福嶋さん:じつは学習指導要領には、水泳実技(授業)を絶対に行わなければいけないといった明記はなく、学校にプールを備えつけることも必須ではありません。きっかけは、1955年に起きた連絡船・紫雲丸の沈没事故と言われています。船の沈没で修学旅行中の小中学生168人の命が失われました。こうした水難事故を防ごうとする動きと、ほどなくして開催された東京オリンピックも影響しています。国が補助金を出して、学校にプールを作ってプールの授業を推し進める動きが一気に広がりました。

 

── プールの設備はそうした背景で作られたとはいえ、肝心なプールの授業の目的、意味あいはどんなものだったのでしょうか? 

 

福嶋さん:沈没事故が大きなきっかけというところを重視すれば、プールの授業は距離やスピードを競うものでなく、万が一、海や川に落下した場合の自衛策を身につけることに本来は重点をおくこととなります。つまり、泳ぎやすい水着を着て、波もないプールで速く綺麗に泳ぐスキルを身につけるよりも、川や池などで着衣の状態でどうするかなど、水辺の安全に関する知識や向き合い方を学ぶことが重要なはずです。