「水着が恥ずかしい」は授業廃止の理由になりうる
── プールの課題は4つあるとのことですが、残りの1つはどういったことでしょうか。
福嶋さん:最近の傾向として、プールの授業を行うにあたっての多様性や性の意識に根ざした課題があります。これまでは「プールの老朽化」や「教員の大きな負担」などが理由で、プールの授業を廃止するケースが多かったのですが、岩手県滝沢市が今年度から廃止する理由は新たな気づきを得るものでした。滝沢市では既存の理由に加えて、欠席率の高さやジェンダー対応の問題などを廃止理由に挙げました。
同市の教育委員会がまとめたプール授業の方針策定によれば、児童の欠席率は36%にのぼり、トランスジェンダーの子どもが露出の高い水着に抵抗感があることも示しました。そうした配慮もあり、授業の撤退を決断したのは新しい視点として評価されています。

── トランスジェンダーでなくても、水着は恥ずかしいと考える児童も多そうですよね。「体型に自信がない」「体毛が気になる」など、イヤな気分で授業に臨むのはつらいものです。
福嶋さん:国語教師で国語研究家としても有名な大村はまさんの著作に「教師は子どもに恥ずかしいと思わせてはいけない」という一節があります。恥ずかしいと思った瞬間に、行動に移せなくなり、恥ずかしさで頭がいっぱいになり、何も学べなくなるというのです。本当にそうだなと思います。
先に挙げた滝沢市の欠席率を見てもわかるように、授業を受けたくない現実を重く受け止めないといけません。上半身を隠せるラッシュガードがあるからいいのでは?といっても、それでも「イヤ」と感じる子どもはいます。「気にするな」では済まされないのです。
── そういった背景も踏まえて、プールの授業は減ってきているのですね。夏は「プールが当たり前」「楽しいに決まっている」先入観を排して、さまざまなリスクや児童一人ひとりと向き合うだけでも、違った結論が見えてくるものですね。
取材・文/西村智宏