この時期、うだるような暑さのなかで外を歩いていると、かつては学校のプールから子どもたちのはしゃぎ声や水しぶきが上がる光景を目にしました。しかし、いまプールの授業が、全国で存続の危機に。公教育のあり方などを研究する千葉工業大学准教授の福嶋尚子さんにその原因と課題を聞きました。
プールの水の止め忘れで「200万円」損失の例も
── プールといえば、暑さの中で思いっきり涼を感じるイベント性の高い授業だと思うのですが、公立の小中学校でプールの授業がなくなる(減る)傾向にあるというニュースを目にしました。これは本当ですか?
福嶋さん:文科省の2023年の報告によれば、小学校の屋外プール設置率は87%、中学校で65%という結果で年々減少傾向にあります。同様に、プールの授業を取りやめる学校も増えています。なぜそうなっていくかというと、4つほど理由があげられます。
1つはお金の問題です。プールを新設するとなれば、ある市の教育委員会の試算によれば工事費用が2億8000万円かかると報告され、既存プールの老朽化で塗装工事をすると900万円以上改修工事にかかった例もあり、維持するには莫大なお金が必要になるからです。実際、水の入れ替えを1回行うと、25メートルプールで300立法メートルの水が必要になり、計算すると20万円程度(各自治体で金額は前後する)かかると言われています。
そして、それだけの水量なので気軽に水を入れ替えることはできないなか、シーズン中は水質を一定にすることが求められるため、濾過機を稼働させ管理する必要があります。それらの維持費に数十万円、必要な薬品の調達などでさらに十数万円で、合計額は50万円ほどに。2023年には、教員の不注意によって、水道を止め忘れる漏水事故が起こり、200万円の損失が出たケースもあるくらいです。
── たしかに、それだけの費用負担があるのに、プールの授業は年間を通して、夏のあいだだけと限定的です。校庭や体育館など、ほかの体育の授業で使う施設と比べても明らかに使用する回数が少ないですね。
福嶋さん:各自治体や天候によっても差がありますが、年間で生徒1人あたり10回もプールを利用しません。雨天や熱中症予防で中止になり、予定している授業回数を下回るケースがほとんどでしょう。それなら、エアコンの導入や体育館などの補修、タブレットの充電保管庫の充実など、学校側からすれば使用頻度が高い施設にお金を回してほしいと思うのも当然のことです。
── プールの授業は保護者にも金銭的負担を強いるそうですね。
福嶋さん:水着、帽子、水泳バック、場合によっては、水着の上に着るウェアのラッシュガードやゴーグルを学校が斡旋する指定業者から購入する必要があります。しかも、体が大きくなれば水着などは買い替えないといけません。学校徴収金として予算化されていないので、そのつど保護者が購入する「予想外の出費」として家計を直撃します。