本当の母親のことが頭をよぎった瞬間

── 差し支えなければ、ご両親について伺ってもいいでしょうか?
松村さん:両親は、僕が生まれてすぐに離婚し、母とは一度も会ったことがありません。写真もないので顔もわからないんです。父は、たまに会いに来ましたが、そのときに一緒にいた女性を僕は「ママ」と呼んでいたんです。子どものころは、実の母親だと思いこんでいたのですが、のちに父の再婚相手だったと知りました。でも、それを聞いたときも「へえ、そうなんだ」と思うくらいで、特にショックを受けたりはしなかったですね。
── 親がいない寂しさや愛情への渇望を感じたこともあったのでしょうか。
松村さん:それがまったくなかったんですよね。祖母が大好きでしたし、近くには叔母もいましたし。ほかにも剣舞の先生、中2でスカウトされてからは所属事務所の社長など、たくさんの大人たちから、そのときどきで愛情をもらっていた実感があり、満たされていたのだと思うんです。だから、愛情を渇望したり、複雑な家庭環境を恨みに思ったりすることもなかったですね。
ただ、ある程度年齢を重ねてからは「本当の母親はどうしているんだろう」と考えるようになりました。
── そうした思いがよぎるようになったのは、何かきっかけが…?
松村さん:別にこれといった理由があるわけじゃないんです。18歳ごろに祖母が倒れて介護の日々が始まり、僕自身も芸能活動が忙しくなって、目の前のことで精一杯。ほかのことに思いを巡らせるような余裕がありませんでした。
その後、38歳で祖母を見送ったときに、「母親ってどんな人だったんだろう」「もし家庭を持っていたら、僕と同じくらいの年の子どもがいるのかな」などとふと思う瞬間があって。だからといって、実際に探してみようとまでは思いませんけれど。
── それはなぜでしょう?
松村さん:もし、別の家庭を持っていた場合、僕がいきなり現れて「どうしていなくなったんですか?」なんて聞いたら、きっと複雑な思いになるだろうし、負担になるのは申し訳ないなと。それに、今さら会ったところで何かが変わるわけでもないという気持ちもありましたね。