旅先でその土地にしかないものをふたりで食べる幸せ
── そういった流れでご結婚されて。今、奥さんは海外勤務で遠距離婚を続けていらっしゃるそうですね。

大澤さん:妻は現在もシンガポールに赴任中です。毎月、月末は僕がお店を閉めて海外で妻と合流する、というのがルーティンになっています。僕はそもそも、食べることが大好きなんですよ。奇をてらうだけのマニアではなく、おいしいものを食べたい。世界各地にその土地で穫れるものを組み合わせてできあがった食文化がある。その土地の先人が積み上げたおいしさがあるわけじゃないですか。それを味わいたいんです。東京でその地域の料理屋に行って味わったからそれで終わりっていうものじゃない。やっぱその土地でしか味わえないものってあるんです。
── 日本でも、その土地でしか味わえない食べ物ってありますもんね。
大澤さん:僕は旅先でその土地にしかない食べ物に出会うと、それを日本に持って帰りたいなと思うタイプなんです。ビリヤニは完全にそのひとつです。15年前にビリヤニに出会ってそのおいしさに衝撃を受け、帰国後に食べたいと思って探したけれど、当時の日本ではちゃんとしたものが普及していないと感じました。だから僕はこの15年、そのおいしさを知ってもらいたくて普及活動をしているんです。最初はただ人を集めて、たくさんの人にビリヤニを食べてもらっておいしいって言ってもらえればよかったんですけど。やっぱり、インドのビリヤニと比べたら、ちょっとな…という気持ちはあります。
インドで食べるビリヤニの味が最高かっていうと、それも違うんですけど。そうなると、じゃあどうすればいいんだって思って、そこからだんだん作って提供するほうに邁進していきました。食べることが僕のインプットになり、作った料理のアウトプットに繋がってくる。妻も食べることが大好きで、海外経験も豊富なので、いろんな珍味を食べることにも全然、抵抗がないんですよ。

── 話が合うとかそういうことよりもまず、食がベースになっている感じなんですね。最近はどのあたりに行かれたのですか?
大澤さん:先月はカンボジア、先々月は香港。その前はタイ南部。最近南部にハマっています。今回行ったのはサムイ島の上のほうなんですけど。タイ南部は魚の内臓を発酵させた調味料を使うんですよ。ちょっと臭いんですけど、それがうまい。大量のハーブと激辛の香辛料、あとは酸味も効かせていて、すごくうまみが強くて辛くておいしい。ご飯があっというまになくなっちゃいます。妻もちょっと臭いくらいは全然平気で、むしろ僕よりアグレッシブかもしれません。興味の中心が食にあって、おいしいものさえあればどこでも行くみたいなタイプだから、ふたりで旅行をするのがすごく楽しいですね。
撮影/土田 凌