お金がなくてもできること
── 枝元さんの考え方のベースはどこにあると思いますか。
枝元さん:私、お金なかったんですよ。元々貧乏な役者で、劇団にいて。いわゆる食えない役者だからアルバイトで友達の無国籍料理の店で働いて、それが料理をするきっかけになったんですよ。
料理学校も行ったことないのに、料理が仕事になった。きっと何かを新しく始めようと思うと、まずはお金を貯めて学校に行こうとか、お金を払って習いに行こうって思う方が多いと思うの。
もちろん基礎を学ぶことは大事だけれど、お金を出して教えてもらおうと思うと、任せちゃう。教えてくれる人の「正解」を鵜呑みにしがち。教わるよりもどうしたらいいか自分で考えることのほうが大事だと思うんだよね。
── 本を出されたり雑誌やテレビに出演されたりと一躍有名になりました。
枝元さん:「料理学校に行ってなかったからよかったのかもしれないね」って言われることもありました。
習ったら、こうしたら間違わないっていう方法を教えてもらえるけど、習っていないから、失敗したら「なんで失敗したんだろう」とか新しいやり方を自分ですごく考える。
失敗は正直、嫌だけど、恐れるものじゃないなって思うのよ。これってよく言われることだけど本当にそうだなって。失敗することを恐れて踏み出せないのは残念。なんとかなるって思ってやっていきたい。
私ね、若いときに「君は自由すぎる」という同じ理由で男性から2回振られたから、よほどだと思うんだけど(笑)、たぶん日本的ないい子からは、はみ出てしまっていると思う。ただの変わり者でも、それを何十年も続けていたらこうやって話も聞いてもらえるようになった。だから今、不安に思っている人がいたら「大丈夫だよ」って言いたいな。
── 自分で自分の道を切り開いていく。
枝元さん:今の時代、生活もそうだし、誰もが世代に関係なく苦しいと思うの。もう少しゆるい価値観で、何かできたら良いよね。安定を求めて、安全でいたいと思う方が多いかもしれないけれど、それにも限界があるよね。「始めるのが遅かった」って思うなら、人より長く続けたらいいと思えばいいんだよね。
私もそうだったなと思うけど、たとえば選挙で投票した人に「全然できてないじゃないか!」と文句を言うだけじゃなくて、自分で考えて行動したいなぁと思うんです。うまくいくときもいかないときもあるかもしれないけど、人に任せて文句だけ言ってちゃ変わらないよね。
── 実際に行動に移すのはなかなか難しいです。
枝元さん:みんなどこかで、ドジでおっちょこちょいな私が素敵な王子に選ばれて…とか、少女漫画のヒロインになりたい。例えば料理でも、安くて早くてうまいなんて、すべて自分に都合がいいことなんて、実際にはないよね(笑)。
楽しいと思って取り組めることを見つけてさ、たとえば料理だったら、お金を出して習わなくても上手になれるよ。10回やったらできるからやってみて。でも10回するには、自分が楽しいと思わないとね。自分を自分で認めてあげるのって自己肯定感もあがるよね。
実際に行動してみて、うまくいかなくても、「残念!」や「ごめんなさい」をストレートに言える人になりたい。もし他人がその立場だったら、許せる人になりたい。これからはそんな年の重ね方をしたい。みんながもっとオープンにものが言える社会になるといいですよね。
PROFILE 枝元なほみさん
1955年生まれ。料理研究家としてテレビ、雑誌で幅広く活躍。NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、一般社団法人「チームむかご」代表。書著に『捨てない未来―キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』ほか。
取材・文/内橋明日香 写真/浅野カズヤ、北原千恵美