料理研究家の枝元なほみさんは、ホームレスの方の自立を支援するビッグイシューの共同代表もつとめています。枝元さんを突き動かす原動力についてお話を伺いました。

計画通りにいかなくてもいい

── 月に1回開かれる「夜パンB&Bカフェ」は毎回、大盛況だそうですね。

 

枝元さん:正直、こんなにうまくいくとは思いませんでした。自動車メーカーのMINIがソーシャルアクションを起こす人をサポートする「BIG LOVE ACTION」という活動に参加したのですが、選考があったので人生初のプレゼンをして。見事選ばれました!カフェを開催する場所代をMINIが負担してくれているのですが、MINIが掲げるBIG LOVEとビッグイシューの頭文字を取ってB&Bカフェと名づけたんです。

 

築150年の古民家で開かれる「夜パンB&Bカフェ」は、新緑に囲まれた自然溢れる場所で

── 共同代表もつとめられていますが、枝元さんがホームレスの方などの自立支援を行うNPO法人ビッグイシューの活動を始めた理由について教えてください。

 

枝元さん:ビッグイシューの「スローフード特集」のときに取材を受けました。そのときには活動内容を知っていて、お金を渡すのではなく仕事を渡すことが素敵だなって思っていたんです。

 

前の代表は販売者さんを個人商店だと言っていたけれど、ビッグイシューは雑誌を作り、販売者さんが売る時間などは自由。クジゴジで(9時〜17時)で会社に属して雇われて決まった給料をもらうのではなく、対等なフラットな関係。そんなところがいいなと思って、私も何かさせてくださいって言ったんです。

 

── 炊き出しもされたそうで。

 

枝元さん:2018年から大人食堂というのを年末年始にして、その食事作りをしました。年末年始は日雇いの仕事がなくなってお金に困る方が出てくるので、食事を作るんです。それも何百食と。

 

全国からたくさんの農家さんがお米や野菜を寄付してくださるんですけど、それがうちに届いてダンボールが山のように積み上がりました。「どのくらい欲しい?」と聞かれることもあります。

 

普通、炊き出しとなると何百食必要で、米は何キロ、野菜は何キロ必要で、と事前に計算しなくてはならないと思いますが、正直、その通りにいくことなんてなかなかない。なので、いただいた、あるもので準備することにしました。私ならそれでなんとかできるから、皆さんが提供してくださるもののなかから作りました。

 

カフェのメニューは枝元さんがレシピを考案。野菜の葉なども捨てずに使う

── 材料を無駄にせず、あるもので。

 

枝元さん:炊き出しって、大きい鍋でひと種類のものを大量に作るイメージがあるかと思いますが、全員に同じものじゃなくて良いんじゃないかと思って。それに決まった量にしないで、たくさん食べたい人はたくさん食べたらいいよね。

 

コロナ禍以降はお弁当のパックに詰めなきゃならなかったのですが、送っていただく野菜の種類も量もそれぞれ違うので、少ないものだったら「これは少なめだけど美味しいから、ひと切れずつどうですか」と声をかけて。いろんなおかずの種類をたくさん作れたので、ベジタリアンのものも用意できて、外国の方にも喜んでいただけました。

 

でもね、パックに詰められたお弁当を渡すだけだと、いただいたらすぐに帰ってしまうので、詰めながらご飯について話すの。「これはね、北海道の〜さんが送ってくれたジャガイモでね、めっちゃうまいんですよ」とか、「これ食べてみて。すっごく上手にできちゃった!」とか。そうやって人と少しでも話す機会をつくるのも大事なんじゃないかと思ったんです。その場にいる時間を長くしてもらえたらって。

 

── 光景が目に浮かぶようです。

 

枝元さん:最初はおむすびを作っていたんですが、握るのがだんだん大変になってきちゃったんです。なので、ご飯が炊けたらボーンと「ご飯炊けたよ〜」って持っていって。湯気がもうもうと立ちのぼるご飯をよそって。炊き立てのご飯って幸せになりますよね。みんながご飯に集まるのっていいなぁって思ったんです。作る人、もらう人に分かれるのではなくてみんなでね。

 

1日に何百食配るとか、それまではいかに効率よくやっていくかを気にしていたと思うんですけど、そうじゃないのもいいなと。

 

社会参画の形って、計画してすることばかりじゃなくて、その場所にいる人みんなですることのほうがいいなぁと、とても勉強になりました。そこからカフェを開きたいと思うようになりました。

 

この日は雨にも関わらずカフェはたくさんの人で賑わう

── カフェでは枝元さんが考えたメニューを提供するほかにもマルシェなどもありますね。

 

枝元さん:ありがたいことに全国から野菜がたくさん届いて。ランチの下準備をしても、まだたくさんあったんですよ。残りそうだったので、「そうだ、野菜もそのままマルシェにしたらどうだろう」と。

 

白菜や大根も使いやすい形に切って、お金がある方には買ってもらって、お金がない方には持っていってもらったの。

 

スタッフには若い方もいるんですけど、私のようなおばちゃんたちは、残っても困るから「これね、切って塩を振ったらそのままでも美味しいよ」とか、お子さん連れの方だったら「その子なら持っていけるから持っていって」とワイワイと声をかけて。正直、うるさかったかも(笑)。

 

でも、おばちゃんパワーってすごいの。自分がおばちゃんになってみて思うのは、いい意味でお節介なんだよね。若い頃は「人にどう思われるかな」とか「偽善っぽく思われたら嫌だな」とか気にしていたけれど、そんな「カッコつけたい」が落ちたら、開けることがたくさん出てきた。

 

── カフェでは、どなたでも食事ができるんですよね。

 

枝元さん:お金がないと、首うなだれて寂しくなってしまうかもしれない。でもお金のあるなしなんてそのときの運だよね。そう思って「お福分け券」ができました。自分以外の誰かのために先払いする仕組みで、それを誰でも使うことができます。

 

誰でも買うことも使うこともできる「お福分け券」

知らない誰かのためにプレゼントする。「今はちょっと余裕あるし」と思って買っていただけるし、お金がない方はお福分け券で楽しんでもらえたら、その場にいるみんなの自己肯定感が高まる。みんなきっとこれからについて考えるとしんどいと思うの、でもそれを少しでも忘れられる時間になったりするのもいいよね。

 

分断されることなくみんなが混ざり合う形で、人と比べてどうこう思うのじゃなく、お互いを比べずに生きていける社会。同じ場所にいて「今日暑いっすね」とかそんな些細なことをおしゃべりできるような、そんな関係ね。小学生の男の子がお年玉持ってきてくれたこともあったんですよ。