鹿肉専門のキッチンカー「SHIKASHIKA」店長のあかりんごさん(24歳)。酪農家をめざすも、鹿肉との出会いで新たな夢をみつけます。鹿による被害・廃棄の問題、そして、“鹿肉はおいしい!”と伝えるべく、大きな一歩を踏み出しました(全2回中の1回)。
酪農家を目指すも鹿肉にハマって
もともとは牛の生態に興味があったあかりんごさん。酪農家をめざし、神戸大学農学部に入学。
夏休みなどの長期休暇には、多くの牧場でアルバイトをして酪農の修行に打ちこみました。ところが、勉強を続けるうちに進路を迷うように。
「牛にはエサとして、エネルギーの高い濃厚飼料を与えます。ところが、日本では原料となるトウモロコシや大豆のカスなどの80%以上を、海外からの輸入に頼っています。
もし輸入先が販売しなくなったら、日本の牛肉や牛乳はどうなるんだろう。酪農家への道は、思ったより不安定かもしれない…と漠然と感じていました」
ちょうどそのころ、所属する農業サークルで開催された「1日狩猟体験」に参加することに。動物を獲るために仕掛けられたワナの現場などを見学したあと、ふるまわれたのが鹿肉料理でした。
はじめて食べる鹿肉でしたが、あかりんごさんはそのおいしさに衝撃を受けます。
「ずっと“肉は牛肉の霜降りが最高”だと思っていたのですが、その概念がくつがえりました。
鹿は運動量が多く、ほとんど脂肪がありません。旨味のある赤身肉です。身体が小さいから、肉質がきめ細やか。臭みもまったくなく、舌触りもしっとりとして繊細。
“硬くて臭い”イメージがありましたが、まったくそんなことはありませんでした。あっさりしているのに肉らしさもあり、食べたことのないおいしさでした」
同時に、衝撃を受けたのが「森林や畑では鹿による獣害被害が深刻。しかも、全国で獲った鹿の9割は廃棄している」という話でした。
鹿肉を廃棄せず、もっと活用するために鹿肉のおいしさを広めよう!と思いを抱き、あかりんごさんは鹿肉料理を広めるための学生サークルをつくりました。
「そのころは勉強不足で、“鹿の獣害や廃棄問題は複雑で、中途半端な知識だけで関わると、関係者の方たちに迷惑をかけるおそれがある”ことを理解していませんでした。
とはいえ、鹿肉のおいしさに感動した私は、とにかくたくさんの人に食べてもらいたくて、家族や友人に鹿肉料理をふるまったり、学祭で“鹿肉カツ”を出品したりしていました。
学祭の運営団体からは、“野生動物の肉を販売するのは、食中毒の心配があり、衛生的にも不安がある”と厳しい指摘も。
そこで、保健所に行き、鹿肉の仕入れ先や調理手順について説明し、“これなら大丈夫”とお墨つきをもらいました」