大切なのは「愛されること」

── スクール生にはどんなことを教育しているのでしょうか。

 

樋川さん:
究極は「愛されるコツ」だと思っています。それはアイドルじゃなくても、どんな仕事についても一緒なので、挨拶や対人関係をどう築いていくかは細かく指導しています。

 

りんご娘
旧メンバーが卒業し、今年4月からメンバーが入れ替わった新生りんご娘(左から金星(3代目)、ピンクレディ、はつ恋ぐりん、スターキングデリシャス)

最近イベントが復活してきて、所属タレントがいろいろな地域に行かせていただく機会も増えてきたのですが、まず“国褒め”をしなさいと言っています。自分たちで調べて、その土地の美味しいものや行ってみたい場所、共感できる好きなものを見つけて、その土地の人が喜ぶことを見つけなさいと。そうしたらあなたたちも愛されるし、覚えてもらえる。

 

王林が東京に行き来するようになって言われたのは、テレビ局の楽屋に出入りするたびに「トントン、失礼します。失礼しました」を徹底していること。それが驚かれるんです。うちではずっと伝統でしているのですが、なんて礼儀正しいんだと言われます。

 

りんご娘
可愛らしいりんごの被り物とコスチュームでイベントに登場したりんご娘

挨拶はすべての基本です。大学卒業後に日産自動車に就職し、出向先の北海道にて車の営業をしていた頃からしていたことなのですが、手書きのお礼状も書いています。またこの子たちを呼びたいと思えるように、感謝の気持ちを伝えることを大事にしています。

 

うちは日本の芸能事務所の中でいちばん多くお礼状を手書きで書いていると思いますよ。字は汚いよりは綺麗に書く。お礼状やサインを書くときに、顔が可愛いのに字が汚かったらみんなガッカリするでしょう。

 

コロナ禍前に実施していた強化合宿ではみんなで自炊して、自分たちで食事も作って食べるんですが、箸の持ち方ひとつ取ってもそうです。いつか、テレビや映画に出るときになったら、あなたの箸の持ち方が気になるよ、と。

 

春合宿で、自炊をするスクール生たち

── 王林さんは青森のPRもさまざまなところでしていますね。

 

樋川さん:
彼女は大学の卒論も津軽塗をテーマに書いていました。青森のためにと、青森愛をPRしてくれているのでありがたいのですが、それはあまりに僕が言っていたからかなと、たまに申し訳なくなることもあります。いまだに東京はホテル暮らしで、少し時間ができると青森に戻してくださいと言って新幹線で帰ってきますよ。

 

私がいちばんしたかった、衰退していく青森をなんとか挽回したいということを先頭でやってくれている。ただ自分が有名になりたいとかではなく、人のため、青森のため。私は「大好きなことで誰かの役に立つ」ということをずっと言っていますが、歌やダンス、タレント性のあることで王林は地域の皆さんの役に立とうとしています。

 

りんご娘
東北六魂祭のイベントのステージに立ち、パフォーマンスを披露するりんご娘

自分の金儲けとか、知名度をあげたいとか、正直自分のためだとすぐ折れると思うんですけど、王林は人のことを思って、ぶれないものを持ってやってくれているので尊敬しかないです。あそこまで青森を愛してくれている、彼女は本当にすごいと思います。

 

PROFILE 樋川新一さん

樋川新一

1970年生まれ、樋川自動車 代表取締役、リンゴミュージック 代表取締役。Uターン後、家業の自動車会社を継ぐが、地元の元気のなさに一念発起し、有志と共に地方活性化を目的とした月謝無料の芸能スクール「弘前アクターズスクールプロジェクト」を設立、地方アイドルの先駆けとなる、りんご娘などをプロデュース。

取材・文/内橋明日香 写真提供/リンゴミュージック