今回はカーブに差し掛かると、車体が傾く車両を紹介します。「車体が傾いたら脱線するのでは」と思った方もいるのでは。どうかご安心ください。傾くといっても少しだけですから。一体、どのような車両でしょうか。
そもそも、振り子式車両とは?
鉄道好きですと「車体が傾く車両」と聞けば「振り子式車両」を思い浮かべることでしょう。 振り子式車両はカーブで内側に傾く機構を持つ車両を指します。一般の列車はカーブに差し掛かると、カーブの外側に傾く力、遠心力が働きます。遠心力は列車が速ければ強くなり、あまりにも力が強すぎると脱線してしまいます。
そのため、カーブでは「速く走っていはいけません」という注意、すなわち速度制限が出されます。あまりにも速度制限が多いと、所要時間が伸びてしまうことに。「カーブでも遠心力を少なくする方法はないか」。そのような思いで開発されたのが振り子式列車です。
カーブを曲がるときに内側に傾くと、遠心力を吸収することができます。そのため、カーブをスムーズに曲がれるわけですね。もし、振り子式車両を体感したければ実際に走ってみましょう。カーブで内側に体を傾ければスムーズに曲がれるはず。実際の鉄道車両でも同じことです。
振り子式車両が登場したのは約45年前
振り子式車両の歴史は意外と古く、営業列車としてデビューしたのは1973年(昭和48年)のこと。振り子式列車のトップバッターになったのは特急列車381系です。最初に投入されたのはカーブが多いことで有名な名古屋駅と長野駅を結ぶ特急「しなの号」でした。その後、大阪と紀伊半島を結ぶ「くろしお号」や岡山と山陰を結ぶ「やくも号」でも活躍。カーブでは従来車両よりも時速20キロも速く、所要時間の短縮につながりました。
381系は車体と台車の間にコロと呼ばれるローラーを使って車体を傾けます。カーブの際に内側に曲がるのはよかったのですが、カーブが終わると揺れ戻しが起きてしまうことに。その結果、乗り物酔いする乗客が続出しました。実際、幼稚園のときに381系に乗りましたが、見事に乗り物酔いしました。私は381系以外の車両は酔わなかったので、同車は私にとって「恐怖の車両」でした。
カーブの曲がりもコントロール
そこで、「乗り心地の良い振り子式車両」として開発されたのが制御付き振り子装置です。制御付き振り子装置はセンサーなどを通じて傾きを調整するため、不自然な動きが少なくなりました。
このシステムを世界で最初に採用したのがJR四国の特急列車2000系です。2000系の成功以降、JR東日本のE351系やJR東海の383系などの新型特急に次々と採用されました。私も2000系には乗ったことはありますが、一度も酔ったことはありません。子ども心ながら、すごい技術だなあと感動しました。
今では空気バネを使って車体を傾けるシステムも
しかし、制御付き振り子装置を採用すると、どうしてもコストが高くなります。また、特殊構造なので一般車両と比べると保守も大変。そこで「カーブをスムーズに曲がる」「乗り心地を悪くしない」「コスパ抜群」、といった贅沢な悩みを解決したのが空気バネを使って車体を傾けるシステムです。
現在の車両では乗り心地をよくするために、車体と台車の間に空気バネと呼ばれるバネがあります。シンプルに書くならば、座布団のような存在ですね。この空気バネの空気を出し入れすることで、車体を傾けるというシステムです。振り子車両よりも傾きの角度は少ないですが、所要時間はあまり変わらない、とのこと。もちろん、振り子式車両よりも乗り心地はよいです。
近年、空気バネを使って車体を傾ける車両が次々と登場しています。たとえば、東海道・山陽新幹線の新スター、N700系も採用しています。東海道新幹線は意外とカーブが多く、速度向上のネックになっていました。一方、制御付き自然振り子装置の車両は次々と引退しています。今後、山岳路線では空気バネを使って傾ける車両がメインになるでしょう。
「やくも号」「しなの号」や四国の特急列車に乗る際は酔い止めを
振り子式車両の登場時と比べると乗り心地は改善されましたが、それでも心配!という方は振り子式車両を採用している路線を確認しましょう。2019年現在、JR線内で振り子式車両が使われている主な列車は以下のとおりです。
- 北海道、四国の特急列車
- しなの号 ・やくも号
- スーパーおき号
- スーパーまつかぜ号
- ソニック号
- かもめ号
子供連れでの乗車の際は、事前に乗り物酔い対策をしておくといいかもしれません。今後もカーブで鉄道がスムーズに走れるように試行錯誤が続くことでしょう。
文・撮影/新田浩之