駅のホームに立っていると「上り列車が来ます」というアナウンスを聞いたことはありませんか?「上り」は一体、どちらを指すのでしょうか?私が子どもの頃、いつも「上り」「下り」が指し示す方向に疑問を持っていました。今回は意外と知らない「上り」「下り」を見ていきましょう。

意外とややこしい「上り」と「下り」

「上り」「下り」を命名するにあたっては、基準が存在します。どんな鉄道路線でも起点駅と終着駅がありますが、基本的に起点駅方面が「上り」、終着駅方面が「下り」とされています。問題はどちらの駅が起点駅になるか、ということですよね。

 

昔からの慣習では東京駅に近いほうが起点駅となっています。たとえば、時刻表の東海道本線のページを確認してみましょう。東京方面行きの列車が「上り列車」となっていることが多いです。

 

それでは東京から遠く離れた鹿児島本線の門司港駅~八代駅間はどうでしょうか。この場合、東京駅に近い駅は門司港駅ですね。ですから、門司港駅方面に向かう列車が「上り列車」となります。 「それじゃ、東京方面に向かう列車がすべて上り列車」と思いきや、例外も存在します。たとえば、中央本線(東京駅~名古屋駅)の場合、長野県の塩尻駅を境に「上り」と「下り」が変わります。以下をご覧ください。

 

  • 東京駅~塩尻駅 上り:東京方面、下り:塩尻方面
  • 塩尻駅~名古屋駅  上り:名古屋方面、下り:塩尻方面

 

地図で見ると、中央本線は塩尻駅を頂点として三角系のような形をしています。塩尻駅で終点となる列車が多く、名古屋駅は塩尻駅よりも規模が大きいことから、塩尻駅~名古屋駅間では名古屋駅方面が「上り」になるのでしょう。

 

2019年1月現在、東京駅・新宿駅方面から名古屋駅方面へ直通する特急列車は設定されていないので、「上り」「下り」が変わっても問題ないのでしょう。ここでは中央本線を例に挙げましたが、他にも「上り」「下り」に関する例外は存在します。

それでは大阪環状線はどうなるの?

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それでは、グルグル回る環状線はどうなるのでしょうか。大阪の中心地を走る大阪環状線をチェックしましょう。答えを言うと、大阪環状線には「上り」「下り」の概念が存在しません。そのかわり「内回り」「外回り」という言い方をします。もしかすると「内回り」「外回り」のほうがややこしいかもしれませんね。 以下の図をご覧ください。

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まず、大阪駅を中心に考えます。日本の鉄道は左側通行ですから、弁天町駅方面行きが内側、つまり「内回り」になります。一方、鶴橋駅方面は外側に位置しますから「外回り」になります。なお、大阪環状線には奈良方面、関西空港方面に向かう列車も設定されているので、十分にご注意ください。

私鉄はどうなるの?

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今まではJRの「上り」「下り」について見ていきました。それでは私鉄はどうなるのでしょうか。基本的に都会やターミナル駅へ向かう列車が「上り列車」となります。たとえば、新宿駅と小田原駅を結ぶ小田急小田原線の場合、新宿駅へ向かう列車が「上り列車」となります。関東圏の私鉄は比較的わかりやすいです。

 

関西圏の私鉄も基本的にはターミナル駅へ向かう列車が「上り列車」となりますが、例外が存在します。それが阪急電鉄京都本線です。阪急神戸本線や宝塚本線は大阪の中心地、梅田駅へ向かう列車が「上り列車」となります。ところが、梅田駅と京都の河原町駅を結ぶ阪急京都線では梅田駅へ向かう列車が「下り列車」となります。やはり、昔の都であった京都に配慮しているのでしょうか。

 

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一方、登山をしているのに「下り列車」というケースも見られます。それが兵庫県内を走る神戸電鉄です。神戸電鉄は神戸高速鉄道線の新開地駅を起点としており、途中の鈴蘭台駅までひたすら上り勾配が続きます。乗っていると、まるで登山をしているような気分になることでしょう。ところが、時刻表を見ると鈴蘭台駅方面の列車は「下り列車」になります。鉄道における「上り」「下り」は「山を登る」「山を降りる」とは関係がありません。

ホームでの放送にはご注意を

最近ではあまり聞かれなくなりましたが、今でも地方では「上り列車が来ます」というようなアナウンスを耳にします。今まで見たとおり、意外と「上り」「下り」の概念は複雑です。はじめて乗る路線でこのような放送を耳にしたら、必ずどの駅に向かう列車かチェックしましょう。反対に友人に道案内するときは、あまり「上り」「下り」といったワードを使わないほうがいいのかもしれないですね。

 

文・撮影/新田浩之