女性を中心に人気を集めているアフタヌーンティーがコロナ禍でも話題となっています。アフタヌーンティーを楽しむことは「ヌン活」とも呼ばれ、綺麗にお皿に盛られたティーフーズがSNS映えするとあってファンも多いアフタヌーンティー。その知られざる歴史について、アフタヌーンティー研究家の藤枝理子さんに伺います。

「もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?」藤枝理子(清流出版)撮影/南都礼子

貴族のベッドルームから生まれたアフタヌーンティー

──アフタヌーンティーは貴族文化だそうですが、本場イギリスでどのように始まったのでしょうか。

 

藤枝さん:

1840年代のイギリスの貴族の生活は12食でした。遅めの朝食兼、昼食をいただいたあと、夕食は夜20時過ぎから始まりました。また、当時の女性はウエストが細ければ細いほど魅力的とされ、コルセットでウエストをきつく締めつけていました。

 

貴婦人たちは、コルセットの息苦しさと空腹から、夕方になると気を失う方が続出したそうです。常に強いお酢のような「気つけ薬」を持ち歩いて、倒れる人がいたら匂いを嗅がせて気を戻していたといいます。

 

──貴族でもハードな生活を送っていたのですね。

 

藤枝さん:

そこで、一人の貴婦人が空腹をしのぐために、自分のベッドルームに紅茶とパンを運ばせ、午後のティータイムを愉しむようになりました。そこへ親しい友人を呼ぶようになり、だんだんと人数が増え、社交の時間として発展していったのが始まりです。その後、1870年代に入り、アフタヌーンティーと呼ばれるようになりました。

今は第3次ブーム 日本のアフタヌーンティーの変遷

──日本ではいつ頃、アフタヌーンティーが始まったのでしょうか。

 

藤枝さん:

日本におけるアフタヌーンティーは、昭和46年の紅茶の輸入自由化が大きなきっかけとなりました。それ以前は、輸入できる紅茶は銘柄や業者が決められていました。

 

昭和50年代には紅茶が贈答品として流行し、昭和60年代のバブルにかけて日本にイギリスのティールームが上陸しました。Fortnum & MasonLaura Ashleyなどが日本のデパートに出店し、そこでアフタヌーンティーの第1次ブームが起こりました。

 

ティールームで使われていた英国の陶磁器ブランド・WEDGWOODWild Strawberry柄の食器をお嫁入り道具にするのが、トレンドにもなったのもこの頃です。

WEDGWOODのWild Strawberry柄のティーカップ/PIXTA

 

平成に入ると、外資系のホテルが次々とオープンにあわせてアフタヌーンティーを取り入れるようになり、その後、日系、外資系問わず多くのホテルが後を追い、2000年代に第2次ブームが起こりました。

 

今は第3次ブームになりますが、SNS、特にInstagramの流行を受けてSNS映えするとして若い世代を中心に人気となっています。今、流行のアフタヌーンティーは、メニューを見るとハイティーに近いものもあります。日本だと混同されがちなのですが、ハイティーとは軽い夕食を伴うお茶の時間のことで、バラエティに富む内容です。

3段スタンドが誕生した理由

──アフタヌーンティーといえば3段スタンドを真っ先にイメージされる方も多いのですが、このスタンドもイギリス発祥なのですか。

 

藤枝さん:

今ではアフタヌーンティーの代名詞となっている3段スタンドは、ヴィクトリア時代後期のイギリスで、ホテルやレストランなどでサービスを簡略化するために生まれた道具です。本来フォーマルなアフタヌーンティーでは、シルバーのプレートで1皿ずつサービスするスタイルなのですが、非常に手間と時間がかかりますので、一度に運ぶために考案されました。

藤枝さんが自宅で開催している英国式紅茶教室「エルミタージュ」/本人提供

 

初期の頃のアフタヌーンティーは紅茶とパンやビスケット程度だったのですが、だんだんと品数が増え、小さなティーテーブルには並べることができなくなり、ダムウェイターという2段や3段の家具が登場しました。それを小さくして卓上型にしたものがシルバーの3段スタンドです。アフタヌーンティーのアイコンのような存在ですが、実は比較的新しい、20世紀に入ってからのアイテムなんですよ。

 

ちなみに、ティーフーズの置き場所は食べる順番に従って、下から順にサンドイッチ、スコーン、ペイストリーが基本となります。ただ、最近は写真映えを意識したセッティングになっていることが多いようです。

3段スタンドで提供されるアフタヌーンティー/本人提供

 

──アフタヌーンティーと言っても、日本では午前中から始まるところも多くありますね。

 

藤枝さん:

貴族文化のとしてのアフタヌーンティーは5 oclock teaと言って17時頃からスタートしていました。だんだんと時間が早くなり15時頃からが主流となりましたが、今は人気を受けてイギリスでも午前中から始めるところも出てきました。日本も上陸時は文字通りアフタヌーンが主流でしたが、今では色々な時間帯に提供されるようになっています。

 

──コロナ禍で、自宅で過ごす時間が増えた今、自宅でも気軽に楽しめるアフタヌーンティーの方法を教えてください。

 

藤枝さん:

今はアフタヌーンティーのテイクアウトも充実していますので、試していただきたいです。また、すべてを手作りするのは大変ですが、スコーンやケーキなど気軽な焼き菓子を一品作り、紅茶を淹れるだけでもくつろぎのティータイムを楽しむことができますよ。

 

イギリスにはアフタヌーンティーの一部分をアラカルトにした、クリームティーという習慣があります。スコーン2個にクロテッドクリームとジャム、それにティーポットたっぷりの紅茶というメニューは、くつろぎのお家時間にぴったりです。

クリームティーのイメージ/PIXTA

 

クロテッドクリームも手に入りやすくなりましたが、マスカルポーネチーズやサワークリームも合います。クロテッドクリームが余った場合は、バターの代わりにケーキやクッキー、お料理などに使ってみてください。バターよりも脂肪分が少ないのでヘルシーです。

 

イギリス菓子はワンボウルで混ぜて焼くだけなど簡単なものが多いので、初めてのお菓子づくりにもおすすめです。スコーンをはじめ、焼きたてのお菓子と紅茶のペアリングは最高に美味しいので、ぜひコロナ禍での癒しの時間を楽しんでいただけたらと思います。

 

PROFILE 藤枝理子さん

アフタヌーンティー研究家。大学卒業後、イギリスに紅茶留学。東京初サロン形式の紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。テレビや雑誌、大学の講演会や企業コンサルタントとしても活躍中。著書『英国式アフタヌーンティーの世界』(誠文堂新光社)など多数。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/藤枝理子、『もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?』藤枝理子(清流出版)撮影/南都礼子、PIXTA