私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

コロナ禍でリモートワークが普及していますが、Yahoo! JAPANは他の企業に先駆けて2014年から働く場所を自由に選択できる制度を作り、その後拡充してきました。

 

今月からは1日あたりの交通費の片道の上限もなくし、出社の際は飛行機の利用も認めています。日本全国どこに住んでもいいという制度を実現させた理由を、ビジネスパートナーPD本部長を務める岸本雅樹さんに伺います。

2回のリモートワークから始まった「どこでもオフィス」制度

── Yahoo! JAPANでは2014年から働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」制度をスタートさせ、リモートワークを推進してきました。コロナ禍でリモートワークが広く普及しましたが、当時この制度が他の企業に先駆けて発足した背景を教えてください。

 

岸本さん:

Yahoo! JAPANは、元々パソコンのインターネットサービスから始まりましたが、2012年に経営体制が変わってからは主力がスマートフォン向けのサービスにシフトしていきました。だからこそ、我々自身も会社のパソコンでしか働けないというのではなく、スマホがあればどこでも働けるというのを示したいという思いがありました。

Yahoo! JAPANのエントランス

 

我々の仕事はクリエイティビティが必要なので、オフィスの同じ環境で仕事をし続けるよりも、色々なアイディアを得られる可能性を広げるために、海でも山でも働ける制度として「どこでもオフィス」制度を始めました。

 

2回のリモートワークを認めることからスタートし、段階的にその回数を増やしていきまして、コロナ禍を受けて回数の制限をなくしました。

 

それでもオフィスに集まる場面を想定して、住む場所についてはこれまで午前11時までに出社できる場所に限っていたのですが、今月からはエリアの制限を撤廃。日本全国どこでも好きな場所に住めるようになりました。

Yahoo! JAPANの社内レストラン「BASE11」

 

── その名の通り、本当に「どこでもオフィス」が実現したわけですね。日本国内であれば会社へのアクセスに時間がかかる場所に住んでも良いのでしょうか。

 

岸本さん:

今月から通勤手段も拡充しました。これまで認めていなかった飛行機での出社も認め、支給する1日の交通費の片道の上限も撤廃しました。

 

制度の拡充を機に、北海道や沖縄など、これまで住めなかった場所に行かれた方もいますし、これから引っ越しを希望している社員もいます。

 

それぞれ自分自身や家族の状況も違いますので、働きたい場所や住みたい場所を選択できるとあって、社内からはポジティブな意見をいただくことが多いです。

山口県で3人の子育てをする女性と新潟県で家業を手伝う男性に聞く「制度のリアル」

── ここからは実際に制度を利用されている社員の方にお話を伺います。秋橋さんは、フルリモートで北九州オフィスに所属されていて、角谷さんは東京のオフィスに週1回新幹線で通勤していると伺っています。

 

秋橋仁美さん:

現在はフルリモートで働いていますが、リモートの上限があった頃は山口県の実家から最寄り駅までバスに乗り、電車を使って福岡県北九州市まで片道1時間半かけて出勤していました。

 

県をまたいで、関門海峡を渡って毎日出社するので、周りからはなんでそこまで遠くに行くのと言われていましたね。

秋橋さんが帰宅途中に電車から撮影した風景

 

角谷真一郎さん:

私は大学で上京して都内に住んでいましたので毎日、満員電車に乗って45分かけて通勤していました。2017年からは丸3年、実家のある新潟県の越後湯沢駅から毎日片道2時間かけて新幹線通勤をしていました。今は週1回出社しています。

 

本や新聞を読んだり勉強をしたり、眠いときは寝たり(笑)。ゆったり座れるのと自分の時間が確保されているので特に苦ではないです。

 

── 秋橋さんは子育て中に転職をしてYahoo! JAPANに入社されたそうですね。

 

秋橋さん:

以前も広告の仕事をしていまして、大好きな広告の仕事を続けたかったのですが、なかなか夜遅くまで勤務することも多い業種で。Yahoo! JAPANはしっかり土日休みも取れますし、育児と両立しながら仕事ができるのが魅力で2015年に入社しました。

 

両親と実家で暮らしているのですが、平日の家事は母にほぼ頼りきりで。その分、仕事に集中できますし、子育ても何かとサポートしてくれるので物理的にも精神的にも助かっています。安心して仕事ができるので本当に感謝しています。

 

── 角谷さんは、家業を手伝うためにUターンしたと伺いました。

 

角谷さん:

実家は祖父母の代から始めた旅館をしておりまして、父親が大学生のときに亡くなり、母親が1人で切り盛りしておりました。母親が1人だったというのがUターンの大きな理由です。

 

スキー場まで徒歩3分の場所にありまして、スキーで来られるお客様向けに営業している12月末から3月の土日に旅館を手伝っております。

 

金曜までYahoo! JAPANの仕事をして、土曜の朝から旅館業全般をしています。フロントでの接客、会計から部屋掃除まで全部。エプロンをつけて走り回っています。冬の間は雪かきが日課で、1日で7080cm積もることもありますよ。

冬の日課の雪かきをする角谷さん。1日で70〜80cm積もることもあるという。

 

── ふるさとにいながら仕事をすることで、ご家族の反応やご自身の心境に変化はありますか。

 

秋橋さん:

会社に行っていたときには子どもは親が何をしているかわからなかったようなのですが、こういう仕事をしているのねってわかるみたいで。より理解してくれるようになりました。リモート会議中に会話の中で笑い声があったりもするので「なんだか楽しそうだね」って言われますね。

 

保護者会や参観日などの学校行事も、これまでは少なくとも半日は休みを取らなくてはならなかったものが、途中仕事を抜けて行くことができますし、習い事の送迎などもできます。子どもたちの選択肢が広がりましたし、何より一緒に晩御飯を食べることができるのが嬉しいです。両親はどちらも70代なのですが、父が末っ子にメロメロで、長生きしたいと言い出しています。

孫の世話を楽しんでいるという秋橋さんのご両親と次女

 

角谷さん:

田舎に帰ると言ったとき、母親からは「嘘〜!?」と言われました。東京の仕事をこの雪深い山の中で本当にできるのかと信じられなかったようで。

 

母親は今71歳なのですが、バブルが崩壊してからスキー人口も減ってきているのもあって、気持ちとしては継いでほしいというのはあっても息子の代に押しつけたくないという配慮からか、決して口には出していなかったです。

冬の間の土日にエプロンをつけて実家の旅館で働く角谷さん

 

それに、私自身も実家を手伝えるとは思っていなかったです。東京で仕事をするか、田舎に帰って実家を継ぐか、どちらかしかないと思っていました。小さい頃から地元の町が大好きで、いつかは戻りたいと思いながらも、田舎に戻るならば東京の会社を辞めなくてはいけないと思っていました。

 

自分にとっても大切な仕事や家族と過ごすことを諦めなくていいということが非常に大きく、すべてを両立できるので幸福感は高まりました。

 

── ご実家で生活することで、ご友人や地域の方などとの交流もありますか。

 

秋橋さん:

子どもの小学校に行くと、同級生のお父さんお母さんが私の同級生だったりします。今月、娘の高校の入学式がありましたが、小中高と私の母校に通っているんです。そこでも私の同級生に会いましたし、再会するのは楽しいですよ。

 

角谷さん:

地元の観光協会の青年部や、有志の青年会に入って地元のお祭りを盛り上げるなどの活動をしています。コロナ禍で大人数の集まりはないのですが、アイディアを出し合って、観光客の方に喜んでいただけるような企画を作っています。

地元の青年会の活動で、湯沢町へ政策提案をする角谷さん(写真中央、グレーのジャケット)

 

それと、東京の最新のトレンドをキャッチしやすい立場にいるので、それを地元に還元しています。

 

例えば、都内だとキャッシュレスが進んでいますよね。でも田舎に来るとまだまだ現金主義が根強くIT関係で東京と比較すると遅れているところがあるので、アドバイスすると重宝されます。実は簡単だよと後押しすると、6070代の方も使われるようになりましたね。

 

── リモートワークが多くなると自分の時間はどう確保しているのでしょうか。角谷さんは家業と、秋橋さんは子育てとの両立をされていますよね。

 

角谷さん:

冬の間は非常に忙しいですが、大変だと感じたことはなく基本的に楽しいですよ。それに、合間に昼寝をするなどして、うまく休んでいます。いろんなお客様がいらしてくれますし、「スキーが楽しかった!」と地元を好きになってくださるのが嬉しいです。

 

秋橋さん:

通勤時間がない分、仕事を前倒しして始めがちなんですが、そこをあえて自分の時間を取るようにして、就業前に読書の時間を取っています。あえていうなら運動不足が気になっています。でもそこに危機感を感じて、今までしていなかったランニングも始めました。

 

角谷さん:

健康への意識は、私も同じです。東京にいた頃は仕事のことしか頭になく、好きなだけ残業もして、夜遅くにラーメンを食べて体を悪くして…。実家で過ごすことで、家族で過ごす時間や地域と繋がる時間を作ろうと思うと、より効率的になりました。

 

無制限に仕事をするのではなく、この時間からこの時間までに終わらせるという健全な意味で時間に対する緊張感が持てていると思います。

 

── コロナ禍では保育園や学校が休みになるなどして、特に核家族の方は、お子さんを家で見ながら自宅で仕事をしなくてはならないという問題が浮き彫りになりました。

 

秋橋さん:

リモート会議をしていてもお子さんの泣いている声が聞こえて、すごく大変だなというのをコロナ禍で目の当たりにしました。私のように子どものことを見てくれる人がいるかいないかで、まったく違うんだなと思います。

 

働くママとして一括りにはできないですし、色々な状況の方がいて、その大変さがリアルに感じられた機会でもあったと思います。ご本人だけの問題ではなく、周囲の人も含めてサポートが必要だし、その人だけに背負わせてはいけないなと感じています。

楽しんで子育てと仕事の両立ができているという秋橋さんと3人のお子さん

 

── 会社が制度を拡充することをどのように受け止めていますか。

 

角谷さん:

変化を恐れない会社ならではの取り組みだと思っています。世の中の動きにあわせて仕事のスタイルも変わってきていますが、それに対してネガティブな反応をする社員は少ないように思います。

 

どの領域の社員も日本の最先端でいたいという意識でいるので、私自身も刺激も受けますし、常に成長していたいと思えますね。

 

秋橋さん:

子育ての状況しかり、人それぞれに状況が異なると思いますので、一番パフォーマンスを発揮できる働き方が実現できることで、会社としても成果が出せるのはいいことだと思っています。一方で、自由と責任はセットだと思うので、好きにしていいよという中にもしっかりやりましょう、という会社からのメッセージだと受け止めています。

「会社と社員はイコールパートナーでありたい」働き方の選択肢を広げる理由

──「どこでもオフィス」制度を利用されている社員の方にリアルなお話を伺いましたが、制度を拡充した理由はどこにあるのでしょうか。

 

岸本さん:

会社と社員の関係がイコールパートナーでありたいというのがポリシーとしてあります。これまでは何時にここのオフィスに集まって、というのを会社が決めて社員が従っていたと思うんですね。でも果たしてそれで業績が上がったのかと。

 

コミュニケーションを考えるうえで集まることには意味があると思いますが、毎日通勤して同じ場所に集まることでどれだけの効果があったのかは誰も説明できないのかなと思います。

 

会社と社員は、会社が上の立場で社員が従うという関係ではなく、社員は成果を出す。会社は社員が成果を出せる環境を提供する。そういった対等な関係、「イコールパートナー」であるべきだと思っています。ベストな働き方は個人によって違うので、良い環境を提供するという意味で今後も選択肢を広げていきたいですね。

 

── 他の企業に向けて発信していきたいことはありますか。

 

岸本さん:

私たちの働き方に関しては正直、今この姿も完成形ではないと思っていますので、まずやってみるという姿勢を今後も続けていきたいと思っています。

 

Yahoo! JAPANは「UPDATE  JAPAN」がミッションであり、情報技術、インターネットの力で日本をアップデートしていきたいと思っています。ですので、今後も私たちがインターネットの力を駆使して働き方をよりよくアップデートしていくことが、他の企業様にとって少しでも刺激になればと思っています。

 

個人や会社によっていい働き方は違うと思っていますので、それぞれご自身の会社と社員にとってのベストな環境を考えて、働き方をアップデートしていくことがよりよい社会をつくるきっかけになればとよいな思っています。

取材・文/内橋明日香 写真提供/Yahoo! JAPAN、秋橋仁美、角谷真一郎