時代にあった私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

前回記事『損保ジャパン流1on1ミーティングで言えた「僕、今日休みます」』に引き続き、大手損害保険会社、損害保険ジャパン(損保ジャパン)の働き方改革の取り組みを伺います。

 

「あなたはどうなりたいの?子供のことは置いて考えて」。そう言われて、「あ、私、自分自身にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をかけて制限していたんだと気づかされたんです」と振り返るのは同社人事部人材開発グループ主任の村中綾子さん。

 

営業職時代、育児休業から復帰前に上司と育休者が受講する「育休者フォーラム」で上司からかけられた言葉をきっかけに、村中さんは自分で無意識に働き方に制限をかけていたことを認識したと言います。

村中さん
村中さん

年約500人、これまでにのべ4000人超が参加した育休者フォーラム

育休者フォーラムは2007年から開始し、東京、名古屋、大阪、福岡の4か所で集合研修として実施。毎年上司と育休者や同僚合わせて約500人が参加し、これまでにのべ4000人以上が参加してきました。コロナ禍の2020年からはオンラインで開催しています。

 

育休者フォーラムでは、育休者が仕事に復帰するにあたり、上司と育休者が現在抱えている不安を話したり、今後どうなっていきたいか目標を定めたりして、スムーズな復帰を目指します。

 

村中さんは当時、営業部門で育休から復帰する立場で参加しました。

 

「これからどうなりたいのか」と上司に問われたとき、村中さんの口からとっさに出たのは「子供がまだ小さいので…」という言葉でした。そのとき、「母親だから」と、無意識に自分のキャリアに自分で制限をかけていたことに気づいたそうです。

 

村中さんは改めて「1年後にチーフになりたい」と目標を設定。上司からは「時短勤務でチーフになるのはハードルが高いよね」「そのためには何が必要かな」と必要な行動を洗い出す助言を受けました。

 

上司とともに「取引先とのパイプ強化」「基本的スキルの向上」など、目標を細分化して取り組みがスタート。1年後には目標通り、時短勤務でありながらチーフになりました。

 

「上司が二人三脚で歩んでくれてキャリアを広げられました」と村中さんは振り返ります。

育休者フォーラム
2018年に行われた育休者フォーラムの様子

重要視しているのは「不安を取り除くこと」

人事担当者が最重要視しているのは育休者の「漠然とした不安」の払拭です。そのために産休前と復帰後にも上司との面談を用意しています。

 

育休者フォーラムでも実際に復帰した人が、どのように時間管理をして仕事と家庭を両立しているか動画を見せてイメージを膨らませてもらいます。

 

人事部人材開発グループ主査の佐々田実さんは「育休者からは自信がない部分や希望する仕事を、上司からは何を期待するかを話してもらいます。考えをすり合わせ、キャッチアップするためには何が効果的かを伝えることで、結果的に育休者の不安が取り除かれ、多くの人が復帰し活躍できています」と話します。

佐々田さん
佐々田さん

 

また、育休中に仕事から離れてスキルが落ちることを恐れる人のために、学び直しの支援も導入しました。

 

社内で見られる研修動画などをアーカイブし、育休中の人も社内のネットシステムで閲覧、学習できるようにしています。

育休者フォーラムに参加する人が「特別ではない」

「決して、あなたたちは特別だと伝える場ではないんです」と話してくれたのは広報部広報グループ主任の小田招子さん。

 

育休者フォーラムは、上司と共に頑張っていく気持ちを整える場。

 

「子供がいて復帰することは特別なことではないよ、先輩たちはこんな風に時間を作りながら働いているよと、だからあなたも頑張って」と伝えているのだそう。

 

復帰して、子育てをしながら働くとき、チームのメンバーとどう協力し合うのか、時間の有効活用や、効率的な事務手順などを考える機会も多く、自分の成長に繋がっているとの声が社内であると小田さんは指摘します。

 

「職場では、それぞれの人がそれぞれ事情を抱えながら仕事をしています。育児だけが特別ではありませんが、新たに向き合う『育児と仕事の両立』をどのように成立させるのか、上司とともに不安を払拭し、前向きに取り組もうとする場です」。

 

 

復帰にあたり、チームメンバーとしての自覚、働く母としての覚悟も持つキックオフの場となっているようです。

取材・文/天野佳代子 写真提供/損保ジャパン