初任地はスウェーデン「鳥にもお国柄」

プロ試験に合格した高橋さんの最初の勤務地は、北欧スウェーデン。日本発祥の技術ですが、新人は「まず海外派遣からのスタート」と話します。

 

「日本は海外に比べ、孵化場の数が少なく、規模も小さいため、国内の鑑別師で需要を賄えている状態です。腕利きのベテランぞろいなので、未経験の新人が入る余地はありません。一方で、ヨーロッパを中心に海外では需要が高いため、資格取得後はまず海外で経験を積むのが定石です。

 

派遣先はドイツ、フランス、スウェーデン、デンマーク、そのほか広くヨーロッパ諸国、南半球はオーストラリアやニュージーランド。私はちょうどスウェーデンから要請があったタイミングで現地に行き、わたしたちが口にする鶏や卵の親鶏やそのまた親鶏にあたる、種鶏(しゅけい)や原種鶏(げんしゅけい)を鑑別していました。

 

ある程度技術に自信がついた状態で海外へ派遣されるものの、長時間にわたる鑑別は初めて。お金をいただき、責任を持って分けることは、ワクワクしつつも緊張しました」

 

海外でキャリアをスタートさせた高橋さんは、「鳥にもお国柄が出る」という現地ならではの経験もしたそうです。

 

「国によって好まれる鶏の種類は違います。例えばフランスには首とお尻に毛のない、鑑別しづらい品種もいました。鶏だけでなく、ホロホロ鳥やアヒル、ガチョウ、七面鳥も分ける必要があり、養成所で学んでいない鳥の鑑別は現地で先輩方に教わりながら技術を磨きました。

 

フランスのひよこ
「初めて見た!」首に毛がない鑑別しづらいフランスのひよこ『クーニュ』

スウェーデンに7年、帰国前の1年間は現地で起業して、ハンガリー、デンマーク、イタリア、ドイツ、フランス、ポーランドなど、何カ国もフリーランスとして走り回ってひよこを分けていましたが、こんなに長く海外にいるとは想像もしていませんでした。様々な国で鑑別をしましたが、どこの国でも『日本人鑑別師は技術がすばらしい』と褒めてもらえる一方、他国の鑑別師に比べてアピール下手なところがあるので、もっと日本人としての技術の高さを売り込める鑑別師が増えてほしいと感じています。一番長かったスウェーデンは、自然や街並みのどこを見ても美しく、他者との調和を大切にする寛容な国民性で、居心地のいい国でした」

鑑別師として23年「継承を担う今後」

帰国後は国内の孵化場で活躍する高橋さん。全日本初生雛雌雄鑑別選手権大会で二度の優勝を果たし、昨年からは全日本初生雛鑑別師協会の理事を務めています。

 

「世界で必要とされる日本生まれの技術でありながら、知名度が低く、鑑別師の人数自体も少ないうえに男性が多い世界です。向き不向きがハッキリしていて、技術力が肝となる仕事ですが、手に職という意味では、本人が希望する限り、結婚や出産を経ても続けられますし、繊細な指先の感覚や微細な変化に気づける直感力など、女性に向いた職業だと思います。

 

鑑別師は基本的に個人事業主なので産休、育休、ボーナスありませんが、自由な時間はたくさんあり、月の半分ほどの勤務で日本全体の平均年収ほどになり、さらに副業も自由。伝統技術ゆえに師弟制度のような風習はまだありますが、以前より女性の割合が増えてきており、働きやすい環境に変わってきています。私にとって天職だと思えるこの仕事を、今後もずっと続けたいですね」

 

キャリア23年目を迎え、「自分はまだ中堅の域」と語る高橋さんが見据えるのは、次世代の育成と技術の継承です。

 

「物価高が続くなかでも、鶏肉や卵は動物性タンパク質として、価格的に手に取りやすい食材だと思います。アニマルウェルフェアの普及が広がるなか、性別を仕分けることへ否定的な声があるのも事実ですが、食の根幹を支える大事な仕事として、やりがいと誇りを持っています。これまで業界に育ててもらったぶん、これからは恩返しをしたい。若い世代とベテラン世代の橋渡しを目指し、100年以上つづく技術が今後もより長く継承され、存続されるよう、私にできることをやっていきたいと思っています」

 

取材・文:内橋明日香 写真:高橋香織