秋冬に増える、子どものかぜや急性中耳炎。「抗菌薬を飲めば、早くよくなるのでは?」と思う人もいるかもしれません。でも、抗菌薬の使い方を誤ると「薬剤耐性菌」の蔓延を引き起こしてしまう可能性が…!抗菌薬を使用するときに私たちが注意すべきことを、薬剤耐性に詳しい藤友結実子医師に聞きました。

目次

約7割が知らない!かぜや急性中耳炎の「落とし穴」

藤友結実子医師
2017年からAMR臨床リファレンスセンターに勤務する藤友先生。抗菌薬の適正使用に関する啓発活動に従事

「熱が出た」「咳が続く」「鼻水が黄色っぽい」。子どもや家族のかぜ症状が続くとき、祖父母や親の世代に「何にでも効く万能薬」として扱われがちだった「抗菌薬」をすぐに頼ろうとする人が今でもいるかもしれません。

 

でも、抗菌薬が効力を発揮するのは、自分で分裂して増える仕組みを持つ単細胞生物の「細菌」です。一般的にかぜ症状の多くは、細菌の10分の1から100分の1程度の大きさで他の細胞を利用して生きている「ウイルス」によって引き起こされるので、抗菌薬を使っても、症状を緩和する効果は実は期待できません。

かぜの原因はほとんどがウイルス。つらそうな子どもを楽にしてあげたいけれど、残念ながら「抗菌薬」は効かない

「ところが、厚生労働省委託事業として薬剤耐性(AMR)対策を推進するAMR臨床リファレンスセンターが行っているアンケート調査では、『抗菌薬はかぜに効かない』と正しく答えられる人は、全体のわずか3割ほど。この調査を10年ほど続けていますが、結果は大きく変わっていません。

 

たとえば、黄色い鼻水が出ている場合、『もしかしたら膿がでているのかな。これは抗菌薬が必要だ』と考える人がいます。でも、鼻水の色は、体内で白血球などの免疫細胞がウイルスなどと戦い、その死骸などが鼻水に混ざってついたもの。色がついているからといって、細菌感染とは限りません」(藤友先生)

 

中耳炎や副鼻腔炎なども、症状や経過によって抗菌薬が必要になる場合と、そうでない場合があるそう。症状だけで判断せず、受診して医師に相談することが大切です。

知ってた?「抗菌薬」をもっと詳しく

「抗菌薬のNG使用」が思わぬリスクを招く!?

抗菌薬の不適切な使用が原因のひとつとなって、近年大きな問題となっているのが、「薬剤耐性(AMR)」です。これは、細菌に本来効力を発揮するはずの抗菌薬が効きにくくなる、またはまったく効かなくなってしまう状態を指します。

 

\薬剤耐性菌はこうして生まれる/

不必要なときに抗菌薬を使っていると、抗菌薬が効かない細菌が増えてしまうことに

私たちの体には、さまざまな細菌が存在しています。抗菌薬を使うと、治療の対象となる細菌だけでなく、その薬が効くほかの細菌にも影響します。

 

「抗菌薬を使うと、薬が効く菌は減っていきますが、もともと薬が効きにくい菌は生き残ります。すると、まわりに菌が少なくなったぶん、生き残った菌が増えやすくなります。それに加えて、細菌自身が薬を受け入れにくい構造に変化したり、入ってきた薬を外へ排出したりするなど、抗菌薬に対抗する仕組みを持つことも。こうして、抗菌薬が効きにくい性質を持つ『薬剤耐性菌』が生まれ、どんどん増えてしまうということです。

 

誤解されやすいのですが、薬剤耐性とは、人間の体が薬に慣れて効かなくなることではありません。『細菌のほう』が薬剤に対抗する力をつけ、結果的に薬が効きにくい性質を持つようになります。抗菌薬が効きにくい耐性菌が増えると、本当に抗菌薬が必要な感染症にかかったとき、これまで使えていた薬が効かなくなる可能性が出てきます。

 

実際、以前、マイコプラズマ肺炎が流行りましたが、そのときは、本来第一選択とされるマクロライド系の抗菌薬への耐性を持ったマイコプラズマが増えたことも一因でした。診断がついても、耐性菌が原因の場合は、本来なら効果があるはずの抗菌薬を投与してもよくならず、治療に苦労しますし、治療がうまくいくかどうか、私たちも本当に心配になります」(藤友先生)

 

最近では、百日咳の症状にもマクロライド系抗菌薬が効かない薬剤耐性菌の広がりが問題になっていると言います。 

 

「抗菌薬が効かなければ、別の薬を使えばいいと思うかもしれませんが、代わりに使える薬がたくさんあるわけではありません。特に子どもは、年齢などによって使えない薬もあります。耐性菌が増えると、治療の選択肢そのものが限られてしまいます。

 

さらに、薬剤耐性は『抗菌薬をたくさん飲んだ人だけ』の問題ではありません。というのも、感染症の原因となる微生物は、咳やくしゃみ、手などを介して、ほかの人へ広がります。ですから、『自分は抗菌薬をあまり使わないから大丈夫』ではありません。使う人も使わない人も抗菌薬について正しい知識をもち、適正使用を徹底することが大切になります」(藤友先生)

怖い!「薬剤耐性」をもっと詳しく

「知らない」がいちばん怖い!私たちにできることは

薬剤耐性菌を増やさないために、私たちは何に気をつければいいのでしょう。藤友先生は「まず大切なのは、感染症そのものにかからないようにすること」と指摘します。

 

「やはり手洗いは特に重要です。水でサッと濡らすだけでは意味がありません。石けんをよく泡立てて、10〜15秒ほどかけて全体をこすり洗いし、10〜15秒ほど流水でよく洗い流しましょう。濡れた手は菌やウイルスが付着・移動しやすい状態。洗ったあとは、清潔なタオルやペーパーでしっかり水分を拭き取ってください」(藤友先生)

 

家庭では、手を拭くタオルを家族で共用せず一人ひとり分けることも、家庭内での感染予防につながります。また、ワクチンで感染症を予防することも対策のひとつ。感染症にかかる人が減れば、結果として抗菌薬が使われる機会を減らすことにつながります。

感染症にかからないことがまず大事なので、手洗い、ワクチン接種を心がけて。抗菌薬は処方された人が飲みきり、他人に譲渡しないこと

さらに藤友先生が勧めるのが、「体調が悪いときは、きちんと休む」こと。家事や仕事などで忙しいと、多少具合が悪くても無理をしてしまうこともありますよね。でも、その行動が症状を長引かせて、自分も辛いし、結果的に感染症を広げてしまうことになりかねません。感染症を予防し、家庭内で広げない。そして、かかったときは無理をしない。こうした日々の心がけこそが、薬剤耐性対策につながっていきます。

抗菌薬は「使わない」ではなく「正しく使う」

薬剤耐性が心配だからといって、抗菌薬を避ける必要はありません。抗菌薬は、細菌による感染症の治療に欠かせない薬です。大事なのは、「必要なときに、決められた量を、決められた飲み方で、必要な期間」服用すること。

 

「症状が一時的に改善しても、十分に治療ができておらず、ぶり返すこともあります。必ず処方された期間や用法・用量を守ってください」(藤友先生)

 

そしてもうひとつ、藤友先生がNGとして挙げるのは、以前家族の誰かに処方された抗菌薬を全部飲まずに取っておき、似た症状が出たときに自己判断で飲んでしまうことです。

ほかの家族に処方された抗菌薬の残りを自己判断で服用するのは絶対にNG

「抗菌薬は種類によって効く菌が違います。以前と似た症状だからといって、残っていた薬を自己判断で使ったり、家族やほかの人にあげたりするのはやめましょう。また、残っている場合は処分しましょう。薬局に持っていって処分を依頼するといいと思います」(藤友先生)

 

そうは言っても、今までの経験などから「症状が悪化しそう」「抗菌薬が必要かも」などと不安に感じることもあるかもしれません。藤友先生は「体調に関する心配ごとは遠慮なく医師に相談してほしい」と話します。

 

「かぜ症状が悪化し、家族から『病院で抗菌薬をもらったほうがいい』などと促されて、不安になってしまう人もいるようです。『以前、同じような症状から肺炎になったことがある』など心配ごとがあるなら、医師に具体的に伝えたうえで、『この症状に抗菌薬は必要ですか?』と相談すれば、より適切な診断を受けられると思います」(藤友先生)

 

藤友先生自身も3児の母。「お子さんの体調不良が心配な親御さんの気持ちはよくわかります」

11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」。抗菌薬は、細菌による感染症から私たちを守ってくれる重要な薬です。その効力を未来にも残していくために、「かぜには効かない」「処方どおりに使う」「残った薬を使わない」という基本的な知識を、ぜひ覚えておいてください。

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取材・文:松崎愛香 撮影:有馬貴子(本社) イラスト/うてのての