5店舗で限界だった14年。届いた一通の「怪しい」メッセージ
── その後、フランチャイズ事業に着手しますが、ダイニングイノベーション社と提携して実際の業務は一任。同社の創業者は焼肉チェーン「牛角」やしゃぶしゃぶチェーン「温野菜」などを立ち上げた外食店業界の大物・西山知義さんです。タッグを組んだ西山さんの存在も大きかったのではないでしょうか?
石神さん:西山さんと知り合う以前の「七宝麻辣湯」のチェーンは、2007年の1号店開業以来、14年間で東京都内にある直営店5店舗のみ。ところが、西山さんの力をお借りして以降、全国規模でフランチャイズ展開を進めてもらい、直近では60店舗余り(2月の取材時点)。この7年で55店舗も増えている計算です。差は歴然ですよね。
私は売上など決算書の数字に弱くて。5店舗の運営でも大変だったんです。かといってフランチャイズの仕組みを使い、効率的に事業拡大する才もない。その壁を突破できたのは、間違いなく西山さんのおかげです。
── 西山さんと知り合われたきっかけは?
石神さん:Facebookのメッセンジャーに、ある日突然、一通の連絡が届いたんです。送り主が西山知義さんで。さすがに「偽物かな?」と一瞬思いましたが(笑)、文面はフランチャイズに加盟したいという、専門的かつ具体的な申し出でした。
実際にお会いしたところ、西山さんはうちの麻辣湯を食べてハマり、フランチャイズを希望されたようですが、こちらはその仕組みもやり方もわからない。「それなら、うち(ダイニングイノベーション)で引き受けましょうか」と、逆にご提案いただきました。西山さんは外食の世界では超有名人で評判もよく、私自身、畏敬の念を抱いていたので、お任せすることにしたんです。
もちろん、無条件ではありません。フランチャイズだからといって味やサービスの質を落とさないよう、麻辣湯のベースとなる「スープは必ず店舗で炊く」「お店は完全禁煙にする」などの諸条件をあげて、了承してもらえたので契約に至りました。
「弱点は克服しない」プロに愛されるための、たった一つの条件
── 外食界のレジェンドとタッグを組み、わずか数年で店舗数は60店に。石神さんは自身の「苦手」を認識しつつ、「好き」を軸に新たなキャリアを築いてきた印象があります。
石神さん:結局、好きなことしか続かないですし、好きなことはつまり、得意なことだから努力も怠らないわけです。逆に現場やフランチャイズ展開など、苦手なことは人に任せ、自分は麻辣湯のレシピ改善によって味を追求し続けてきました。それが、いまにつながっているのだと思います。
それに、私より東南アジアで麻辣湯を口にした日本人はたくさんいたはずです。でも、日本に持ち込めば「絶対に当たる」と実行に移せた人はいなかった。私にはその確信があったから、赤字続きだった5年間も我慢できたんだと思います。

── 自分の弱みを隠さない。できないことは人に頼るというのは大切なことですね。
石神さん:私は得意・不得意を自覚しているつもりです。不得意があっても頼れるネットワークを築いていれば困らない。例えば、オリジナルの調味料を作るときに頼るのは食品会社OBの方。80歳を超えていながら、食品業界に豊富な人脈を持っていて最適な仕入れルートを紹介してくれます。だから私は自分の役割である好きなことに没頭できるんですよ。
取材・文:百瀬康司 写真:石神秀幸