「全部、私が悪いんでしょ!」と叫ぶ名もなき母へ

── 昨年、西坂さんの監督作品『母娘―おやこ―』を拝見しました。母親が子育てや家事をひとりで抱え込んでしまう状況のなかで、「全部、私が悪いんでしょ!」という言葉を聞いて胸が痛くなりました。いつの間にか追い詰められているその姿は、決して他人事でありません。

 

西坂さん:僕のおばあちゃんも父も母も、片田舎の通例に囚われて抑圧された人生を送ってきて、それぞれ精神的に孤立していたと思います。いっぽうで、今の社会は、また別の形で簡単に孤立してしまう構造だと感じていて。目には見えない社会の同調圧力によって「自己責任」という言葉を背負わされ、当事者が責められるように感じ、実際、自分を責めてしまいがちです。特に30代、40代のお母さんたちはその渦中にいることがありますが、悪いのはお母さんではなく、孤立を生んでしまう環境や社会の構造があることが問題なんです。

 

だから、困ったときには「図々しい」なんて思わず、誰かを頼ってほしい。身近な誰かと一緒にご飯を食べるだけでもいいから、人とつながり、孤立しないでほしいんです。そんな思いで、この映画を作りました。

 

西坂來人
西坂さんが監督した短編映画『母娘―おやこ―』の看板と一緒に

── この作品を、お母さんもご覧になったそうですね。

 

西坂さん:いつもは僕の作品に厳しい母が、泣きながら「すごくいいね」って言ってくれました。「追い詰められやすい状況にあるお母さんたち、たったひとりで苦しまないでほしい。誰かとつながってほしい」という僕の思いが伝わったんだって思って、本当にうれしかったですね。

これからの目標。負の連鎖を止める「物語」を

── 今後の目標を教えてください。

 

西坂さん:児童養護施設出身の芸人の物語『レールロードスイッチ』という映画を完成させることが今の目標です。2018年からインタビューを続け、もう10年経つので、そろそろ形できたら、と。

 

あとは、映像や絵本を作りながら楽しく生きたいです。それが誰かのためになったり、社会の中で意味があるものになったら、もっといいなと。昔の自分のように、「自分は大丈夫」という言葉で本当の気持ちに蓋をしている人がいるかもしれない。そんな誰かの気づきにつながる作品を作るためにも、いつまでかかるかわかりませんが、きっと実現させたいです。

 

 

かつての封建的な暮らしも、現代の個人主義的な暮らしも、形を変えた「孤立」を孕んでいます。 自力で道を切り拓いてきた西坂さんだからこそ、今、孤独に戦う人たちへ「孤立しないで」と手を伸ばします。 人とつながることは、時に「煩わしさ」を伴うかもしれません。けれど、それは同時に、私たちを生かし直してくれる「生命線」でもあります。あなたは今、誰かに「助けて」と言えていますか? 西坂さんの願いを、どう受け止めましたか。

 

取材・文:高梨真紀 写真:西坂來人