「母はスーパーマンだったけれど、真似しなくていい」

── ご自身が虐待を受けた方や親子の支援活動に関わるなかで、あらためて気づいたことはありますか?

 

西坂さん:しみじみ思うのは、「僕の母は、スーパーマンだったんだ」ということ。持ち前のコミュニケーション能力を生かしてまわりの人を味方につけ、僕たちを守ってくれました。でも、今の親子支援の現場を見ていて思うのは、誰もが母のようになれるわけではないし、真似をする必要もないということです。むしろ、「お母さんは自分を犠牲にして僕たちを守ったんじゃないか」という申し訳なさも大人になってから感じるようになりました。

 

──「個人の頑張り」に依存しすぎる社会への危惧ですね。

 

西坂さん:そうです。母のような強い人ばかりじゃない。全部を自分のせいにせず、社会の仕組みに頼っていいはずなんです。「自己責任論」でお母さんたちが自分を追い詰めてしまう前に、もっと頼れる社会資源がたくさんある世の中になってほしい。母を尊敬しているからこそ、「お母さん、ひとりで頑張りすぎなくていいんだよ」と言える社会を作っていきたいと思っています。

 

 

憎むべき暴力的な父親もまた、抑圧的な子育ての被害者だった。母は自分たちきょうだいを救ったスーパーマンだけど、それは母自身の人生を犠牲にして成り立ったものかもしれない。物事の裏側にある「背景」を知ることで、これまでの景色が180度変わり、自分の中の正しさが揺らぐことがあります。あなたにも、誰かの背景を知ることで、心がフッと軽くなった経験はありませんか?

 

取材・文:高梨真紀 写真:西坂來人