「母の病気はしんどかった。でも、母を悪者にしたいわけじゃない」。中学2年生から、うつ病とパニック障害を抱える母のケアをひとりで担ってきた坂本拓さん。包丁を持ち出すほど荒れる母を守り、24時間気が休まらない過酷な「ヤングケアラー」生活を約7年続けてきました。壮絶な日々を経て、現在は当事者の会「こどもぴあ」を運営する坂本さん。世間が親を「加害者」や「毒親」と決めつける風潮に、彼は静かな違和感を抱いています。凄惨な過去を知るからこそ語れる、割り切れない「家族の情愛」と、再生のメッセージです。
歯磨きの習慣さえ教わらない「家庭という密室」で育つ子どもたちの現実
── 坂本さん自身、精神疾患の親をもつ子として、中学生のころから親を支えるヤングケアラーだったことを公表されています。そうした子どもたちには、どんな特徴があるのでしょうか。
坂本さん:精神疾患の親といっても、発症のタイミングにより影響はさまざまです。僕のように、罹患前後のギャップにショックを受ける子もいれば、生まれたときから病状があるのが「当たり前」という子もいます。
後者の場合、毎日の歯磨きや入浴の習慣を教えてもらっておらず、小学校に入ってようやく周囲との違いに気づくこともあります。「一般常識」とされることを理解しないまま育つという話は、私が代表を務める精神疾患の親をもつ子どもの会「こどもぴあ」でも、本当によく聞くんです。

── 親が医療や福祉に繋がっていないケースも多いのでしょうか。
坂本さん:そう思います。精神疾患の方は「自分が病気である」と理解することが難しく、医療が中断したり、そもそも未受診のまま「未診断」の状態にある親御さんも多い。親が支援を受けていないと、その子どもをケアすることも難しくなります。特に統合失調症の場合は、ご本人が幻聴や幻覚だと認めづらく、被害妄想だと言われるつらさもあると思います。
僕自身、うつ病を発症した母とふたりでやっていくしかないと思い込み、誰にも相談しなかったことを、今は反省しています。少しでも第三者に頼っていたら、あんなに孤立することはなかった。同じ立場の人と気持ちを分かち合いたいという思いが、「こどもぴあ」設立の原点でもあります。