そう思える今がいちばん幸せです
── 忙しくされていたのですね。
岸田さん:セラピーや講演で、みなさんには「自愛優先で、無理しないで」と言っているのに、自分にはつい厳しくなってがんばりすぎてしまうんですよね。
2021年に、感染性心内膜炎を起こして手術を受けました。後遺症が残る可能性もあって、今度こそ「もういいかな」と生きることをあきらめそうになったのですが、助けていただきました。せっかく助かったのだから、これからの人生は自分が楽しいことを見つけようと思っています。
退院して1か月後、奈美と良太に付き添われて、東京オリンピックの聖火ランナーとして走ることができました。夢を見ているような時間でした。
── 今は、どのように暮らしていらっしゃるのですか。
岸田さん:ミライロを退職させてもらって、マイペースで1対1のセラピーやコンサルティングをしています。
日本は、ハード面のバリアフリーは進んでいますが、車いすの人とどう接したらいいかわからないという人も多いですよね。急に車いすを押されたり、そうかと思うと段差の前で困っていても、誰も気づいてくれなかったり。そういうとき、気軽に「何か手伝いましょうか?」とか「手伝ってください」と言える空気が作れたらいいな、と思います。
奈美は結婚をして、良太も家を出てグループホームで暮らしているので、私はひとり暮らしなんです。もう、がむしゃらに仕事や子育てをしなくてもいいから、ラクですね。何も予定がない日に、「今日、何を食べようかな」「どんな服を着て、どんな靴を合わせよう」「どこのカフェで本を読もう」と考えるのが楽しみです。
夫が亡くなったことも、歩けなくなったことも、事実は変わらないけれども、それでも楽しいことを選ぶことはできるんですよね。
私は長い間、自分に厳しかったので、今は自分を甘やかして、自分に優しくするようにしています。好きな人と会って、好きなことをする。「これ、ほしいけどどうしようかな」と思ったら「買っちゃえ、買っちゃえ」「食べちゃえ、食べちゃえ」という感じ(笑)。おかげで、娘からは「いつも楽しそうやね」と言われます。「次、どんな楽しいことが起こるやろ」「どんな楽しいことしよう」と思える今がいちばん幸せです。
取材・文:林優子 写真:岸田ひろ実