51歳で社会人デビュー「専業主婦の経験も無駄じゃない」

── 51歳で社会人デビューしてみてどうでしたか?

 

花岡さん:先ほどエクセルの使い方もわからなかったと言いましたが、採用が決まってからは字幕がどうこうという前に、「満員電車に乗って通勤できるのだろうか」「パソコンはうまく使えるだろうか」という心配のほうが勝っていました。案の定、入社後に会社のパソコンの電源の位置がわからなくて、先輩社員に「電源はどこですか?」と教えてもらい操作を覚えることから始めました。でもじきに習得でき、予定よりも1か月早く独り立ちするよう言われました。

 

専業主婦時代に培ってきた、コミュニケーションスキルやプランニングスキルはけっこう役立っていると感じます。字幕監修をするのはひとりですが、上司や営業社員、翻訳者など多くの人と円滑にコミュニケーションを取る必要があります。また、放送日や納期から逆算して計画を立てるのは、常に学校が違う7歳差の息子の子育てを、ワンオペでやりくりしてきた経験が生きていると思います。

 

── その後2019年に独立され、フリーの字幕監修者として活躍されています。最近では、「44歳で韓国語の勉強始め、51歳で配給会社の韓国ドラマ字幕監修者に採用され(それまでは専業主婦)、54歳で翻訳実務士(TQE)の資格を取り、59歳で出版社から声をかけられてエッセイ集を出版しました。まだまだやりたいことは多いです」というXのつぶやきが話題となり、現時点で575.7万件の表示、4.4万「いいね」がついています。皆さんのコメントや反応を見ていかがでしたか? 

 

花岡さん:何かを始めるのに年齢なんて関係ない、という内容の、あるフリーライターさんのツイートを引用する形で軽くつぶやいたのが、いつの間にか多くの方に反響いただく結果になりました。コメントを拝見していると、皆さん何かやりたいこと、挑戦したいことがあるけれど、年齢的なものやいろいろな理由があってちゅうちょしている方がものすごく多いと感じました。でも44歳、専業主婦から韓国語を始めた私のような人間もいることが、年齢を気にせず何かを始めるきっかけになればいいなと思っています。

 

── 54歳で取得された翻訳実務士というのは、産業分野にも通用するプロの実務翻訳者の資格だそうですね。合格率10%とかなりの難易度だそうですね。

 

花岡さん:翻訳実務検定(TQE)は、字幕監修の仕事の際の自分の翻訳の能力を客観的に見たくて受験したのですが、さいわい1回目で合格しました! 

 

── エッセイを出版後も声優オーディションを受けてCD作品に出演するなど、さらに幅広く挑戦を続けていらっしゃいます。

 

花岡さん:はい。まさか自分が59歳で本を出す人生になるとは思っていませんでした。声優は過去に一度オーディションに受かって、子ども向けの昔話の登場人物の役をもらってCDに吹き込む仕事を単発でやらせてもらったことがあったんです。「一度の合格ならまぐれかもしれないけど、もう一度受けてみたらどうかな?」と思い、昨年たまたまインターネットで見かけた声優オーディションを再び受けたらこちらも運よく合格しました。プロの先生がたから「聞きやすい声」「独特のキャラクター」といった審査コメントをいただけたのが励みになり、いつかはラジオのパーソナリティーみたいなことができたらいいなと密かに思っています。「推し活」の延長で始めた韓国語ですが、習得したことで世界が広がりましたし、何歳からでも挑戦し続けられるという自信になりました。

 

取材・文:富田夏子 写真:花岡理恵