「いっそ彼が逃げてくれれば」と願ったことも

── 親御さんからの厳しい言葉や、世間の偏見も重なって、「いっそ彼が逃げてくれれば」と考えたこともあったそうですね。
マダム信子さん:正直、ここまで状況が悪くなったら、彼もどこかで離れていくだろうなと思っていました。むしろ、そのほうが彼のためかもしれない、私も身軽になってひとりでやり直したほうがいいんちゃうかな、と。銀座でママをして、それなりにいい暮らしをしていたのが、一気に貧乏暮らしですからね。19歳も年下の男性が、お金もない年上の女と一緒にいる必要なんてない。普通なら逃げてもおかしくない場面だと思います。
親からも毎日のように責められました。「若い男の人なんか連れて、あんたは何をしてるんや」「そんなみじめな姿になって情けない」と。家賃がろくに払えず、大家さんには「申し訳ありません。もう少しだけ待ってください。必ず立て直しますから」と手紙を入れ続けました。そしたら玄関に野菜を置いてくださって。その優しさに触れ、思わず泣き崩れました。
── そんな状況でも、幸治さんは逃げずに、隣に立ち続けてくれた。どんなふうに支えてくれたのでしょう。
マダム信子さん:彼は私からだけでなく、このどうしようもない現実からも逃げませんでした。プライドを捨ててカード会社にお金を借りに行き、金策に走り回ってくれました。モデルや俳優の夢も捨てきれず、合間にオーディションにも通いながら、毎日のように店に立ち続けてくれたんです。
仕事が終われば2人で銭湯に行って、帰りに芦屋の豪邸を見ては「いつかはあんなところに住みたいね」と話しながら、またうどんを食べて帰ってくる。踏切で車が止まったり、事故にあったり、踏んだり蹴ったりの毎日でしたけど、彼がいたからやってこられたんです。
彼が逃げなかったから、私もなんとか踏ん張れた。自分のためだけだったら、きっとあそこまで頑張れなかったと思います。彼がいなかったら今の私はないですね。感謝してもしきれません。