子どもがほしいと頭をよぎった時期もあったけど
── 30年という長い月日のなかで、「お子さん」について考えた時期もあったと伺いました。どんな思いを抱いてこられましたか。
マダム信子さん:出会ったころは私も40代半ばで、銀座のママとして毎日が戦いのような日々でしたから、当時は子どものことは頭になかったんです。「2人の時間を楽しめればそれでいい」と思っていました。でも、長く一緒にいるうちに気持ちが変わってきて、「2人の子どもがいたらどんなにいいだろう」と真剣に考えた時期が何度かありました。
年齢的なこともありますから、専門の先生に相談に行ったり、私たちなりにできる限りのことは精一杯やりました。でも、そのタイミングで家族の不幸が続いたりして、なかなか実現にはいたらなかったんです。
最近、彼がテレビ番組で「実は40代のころ、子どもがほしいと頭をよぎった時期があった」と話しているのを見て、「ああ、やっぱりそうやったんやな」と思いました。当時は、彼も私を気づかってくれたのか、自分からは決して言いませんでしたし、私もなんとなく察してはいましたけど、怖くて聞けなかった。お互いに、相手を思いやるあまり口に出せなかったんですね。
── そうした葛藤を経て、今はどんなふうにとらえていらっしゃいますか。
マダム信子さん:「いたらいたで苦労があるし、いなかったらいないで寂しさもある」。今は、そういう考え方に落ち着いています。どの人生にもいい面としんどい面があって、与えられたものをどうまっとうするかがいちばん大事なんだと思います。私たちには私たちの、子どもがいないからこそ築けた濃密な時間がある。与えられた人生をせいいっぱい生きればいい。そう思えたことで、気持ちがだいぶ楽になりました。
私はずっと「逃げない、捨てない、諦めない」という言葉を大切にしてきましたが、その裏には、逃げずにそばにいてくれた彼の存在があります。成功も失敗も、最後は2人で笑い話にできたらいいなと思っていますし、「この人のために生きたい、少しでも恩返しがしたい」という気持ちは、これからも変わりません。
取材・文/西尾英子 写真提供/マダム信子