限界まで自分を追い込む「つらさとおもしろさ」
── 混乱状態の葉月さんを救ってくれていたのがボクシングだった。そして、弟さんの死と向き合ってどう変化していきましたか。
葉月さん:弟の死から目を反らすために始めたボクシングが、いつしか私の夢へと変化していきました。それはボクシングの過酷さにあります。毎日のトレーニングや減量…。これまでの私なら逃げていたことですが、弟の死をきっかけに自分を変えたいという思いが芽生えて「苦しくても立ち向かう」と、決心がついたのだと思います。
そして、ジムを探し始めるという行動に移していきました。ちょうどそのころ、世界の舞台で輝いているプロボクサーの黒木優子選手をあるメディア映像で見たときに、突然、何の根拠もないのですが、自分自身がリングの上に立ってスポットライトを浴びている姿を想像してしまって。「それが実現したら…」と考えると、鳥肌が立ったんですよね。「夢を見つけた」感覚でもありました。
── 鳥肌が立つくらい叶えたい、大きな夢がボクシングに詰まっていたんですね。そこまで魅力を感じるのはどういったところですか。
葉月さん:練習は毎日、本当にきついです…。プールトレーニングなんて溺れそうになりながらやるので、気が重かったりもしますし。でも、練習や試合で感じるのは、ボクシングというスポーツは「職人」に近い没頭感があることです。1度の試合はひとつの作品をつくるような感じで、自分の体を鍛え絞って磨き上げていく。そして、実際に対戦する相手との試合に打ち勝つために、こまかな技術を身につけて技術を微調整しながら研ぎ澄ませていくさまが、自分という作品をつくり上げていく感覚を覚えるのです。

コロナ禍のときに初めて世界挑戦をしたのですが、フルラウンドでは決着がつかず、試合を採点する3人の審判による判定になり、0-3の判定負け。それまでやる気や勢いだけで乗り越えてきたところがあったのですが、それでは世界のレベルには到底、通用しないことが身にしみてわかりました。
技術面はもちろん、根本的な体の使い方や仕組みがまだ私自身、わかっていなかったんですよね。次のレベルに進むには、「体の軸を起点にどの筋肉を使って、この骨をどう動かす」とか、そういう話になってきて…。私は未経験からのスタートでしたし、その理解をするのがとても難しかったです。毎日ジャブを1000発、ストレートを1000発とか、体の使い方を意識しながら、トレーニングを重ねていきました。