身内の死は堪えるものです。気分が落ち込んだり、何をしても晴れないことだってあります。葉月さなさんは、弟の死に対する喪失感をまぎらわすために始めたボクシングで、これまでの人生観さえひっくり返すような境地に至ります。
弟の死でメンタル崩壊のときに出合った
── 幼いころに母親が家を出ていってしまい、児童擁護施設で育ち、17歳で出産するなど波瀾万丈な生活を送っていた葉月さん。それまではスポーツ未経験で、何をやっても続かなかったそうですが、30歳という遅咲きでのボクシングのプロデビューを飾ります。ボクシングに目覚めたきっかけは何だったのでしょうか。
葉月さん:ボクシングに触れたきっかけは弟の死でした。当時、勤めていた会社の上司がボクシングをしていて、事務所にもサンドバッグがあったんです。じつはそのころ、弟が自死をして、私のメンタルはボロボロの状態でした。でも、サンドバッグを前にパンチを繰り出している間だけはつらいできごとを忘れられたんです。夢中で体を動かして心のモヤモヤを払拭したかったんでしょうね。
弟は素行が悪い部分があって、私が支えになりきれなかったところもあります。実際、弟を見ていると、すごく生きづらそうな性格ではあったんですよね。「棒はまっすぐじゃないとダメ」「黒は黒じゃないとダメ」というようなこだわりや生真面目さ、譲れなさ、頑固さが伝わってくる性格で。いっぽうで「どうせ俺なんか」が、口グセでした。弟が自死をしたという連絡が入ったとき、びっくりしたというよりは、「とうとうやってしまったか…」という思いでした。それを止められなかった自分に対して、いまでも後悔があります。

── 身内がみずから命を断つ経験は、想像を絶します。葉月さん自身の生き方や考え方にも影響を与えたのでしょうか。
葉月さん:弟の死は私にとってものすごく大きなことでした。それまでの私の人生は児童養護施設で育って、17歳で子どもを産んで、仕事も長く続かず、嫌になったら逃げる。そんななかで直面した弟の死。努力することがもともと苦手な私でしたが、「このままでいいのか」と、これまでの自分の人生を考え直すようになったんです。