中途半端な気持ちを断ちきった寛平師匠の言葉
── 理想は芸人1本。でも、「中途半端に両方持っている」というよりは、電気工事士という「できること」が新たにひとつ増えたとも考えられますよね。
亘さん:2012~2013年に『吉本百年物語』というお芝居で間寛平師匠と共演させていただいて、食事をご一緒させてもらったことがあったんですけど、そのときに「なるほど、そうやって考えるんだ」と、度肝を抜かれた師匠の言葉があって。「芸人は『何してんねん!』でええねん。『何してんねん!』がスポットを浴びんねん』と言うんです。「(寛平さん自身の経験として)ヨットで世界一周!『何してんねん!』って思うやろ?」と、おっしゃって。
それを聞いて、「何してんねん!」の部分が笑いになるんだとしたら、一生懸命ネタを披露することだけじゃなく、自分が持つ趣味や特技など、別の角度からアクションを起こしたら、それでもって、お笑いの土俵に上がれるのかもしれないと、漠然と思ったんです。寛平師匠は食事の場で、「俺、これから木の上で生活しようとしてんねん。『何してんねん!』って思うやろ?」ともおっしゃっていて。その後、師匠が木から落ちて骨折したっていうニュースが流れてきました。「何してんねん!」と、芸人として尊敬しました。
── さすが寛平さん。たしかに「何してんねん!」の部分が笑いにつながっていますね。
亘さん:いまの自分にあてはめると、「亘が電気工事士の資格を取りました。芸人が『何してんねん!』」って、なりますよね。これこそが芸人なんだと、寛平師匠の言葉で思えたところがあって、自分が現場仕事に踏みきるときには、支えになった言葉でしたね。
「ネタで勝負し続けている芸人」は、お笑いの世界の王道だと思うんですけど、「何かに特化したタレント」として発信していくやり方もあるのかなと思ったりしています。いまはYouTubeなど、発信手段もさまざまありますし、「自分のやりたいこと=芸人として生き残る」のであれば、「どれとどれをつなげたらメディアや世間から注目を浴びるか」をもっと広い視野で考えていこうと。電気工事士の資格を、芸人としての自分に生かすことができるかもしれないですし。そう考えると、武器をひとつ手に入れたのかもしれません。
取材・文/高田愛子 写真提供/亘 健太郎