俳優とスタイリストそれぞれの魅力

── 野波さんは俳優とスタイリストの仕事を両立されていらっしゃいます。まったく違う仕事のように思えるのですが、それぞれにどう向き合っていらっしゃるのですか。

 

野波さん:俳優のお仕事に関しては自分を表現していかねばなりませんし、すべてのインプットが自分に返ってくるという感じがします。

 

役について考えすぎて悶々とすることもありますし、目に見えてこない部分が多くていまだに迷うことも多いです。でも、だからこそ長く続けてこられているのではないかなと思います。長く続けてきたことで何か見えたことがあるかと聞かれたら、まだ何も見えていないとも思います。年齢を重ねてさまざまな経験を経たことで、昔よりは考えすぎていた部分を省けるようになってきたようには感じますが、いまだに作品のクランクインはものすごく緊張しますし、それはデビューのときから何にも変わっていません。

 

舞台は、みなさんと作り上げている期間がありますが、ドラマや映画は台本をいただいてから本番までの期間が短く、ひとりで本番まで持っていかねばなりません。いまだに「これでいいのかな」と思いながら、自分の中での正解を見つけて毎回挑んでいます。現場で一緒に演じる俳優さんが自分とは違ったやり方で表現する姿を見るのも刺激になりますし、それが舞台とは違ったおもしろさだと思っています。

 

── スタイリストの仕事は、俳優と違って自分が表に出るわけではありませんね。

 

野波さん:「誰かのために」と、考えれば考えるほどアイデアが出てきます。まとめるのは大変ではありますが、私がスタイリングをすることでその人のまだ表に出ていない魅力を伝えられたら嬉しいです。現場の編集チームやカメラマンさんと、「こういうのはどうかな」とよりいいものを目指して意見を出し合いながら作り上げていくライブ感もあります。本人の希望もそうですが、それぞれが出したアイディアがしっかり目に見えて繋がっていく感覚を楽しんでいます。俳優もスタイリストも、どちらも正解がないものを表現する作業ではあるのですが、私にとってそれぞれがぜんぜん違っていてどちらも大切な仕事です。