息子の存在を隠したことへの違和感

── 息子さんへの思いが変わった出来事があったと伺いました。

 

石田さん:あるとき一度だけ、息子の存在自体を隠してしまったことがあったんです。話の流れの中で、息子の話をせずに会話をしたことがありました。私が子どもを産んでいたことも知らない相手は、特に疑問に思うことはなかったはずなのですが、私自身はそのあと、すごく違和感がありました。

 

息子の話をしたら経緯を話すことにもなって、きっとこの人を悲しませるし困らせると思ったのですが、そんなことより私が「なんで息子の存在を隠そうとしてしまったんだろう」という悲しみが大きくなりました。積極的に話すべきだとはもちろん思いませんが、悲しみに蓋をするということにも種類があって、子どもの存在自体も話さないことは、あとあと自分にとってよくないと思いました。

 

石田千尋さんと息子の夕青くん
ドイツでお散歩をする石田さんと夕青くん

── 現在、闘病中や闘病を経験したお子さんやご家族を支援する活動をしているそうですが、きっかけはなんでしたか。

 

石田さん:私たちは息子との最期の数日を家でも病院でもなく、闘病中のお子さんが過ごすドイツのこどもホスピスで過ごしました。家族のようなあたたかな雰囲気で受け入れてくれたこの場所を、いつか生まれ育った福井県にも作りたいと思っていました。ところが、あっという間に丸2年が過ぎ、1歳9か月で亡くなった息子の年齢を超えてしまっていました。

 

息子を失ってから寝て起きての日々を過ごしていましたが、「このままではいけない」と、小児がん闘病経験者の支援団体に連絡を取り、話を伺わせていただきたい旨を伝えました。そこで出会ったお母さんに、いつかこどもホスピスを作ってみたいと思っているという話をしたらすぐに賛成してくれたんです。きっとこれは必要とされていることだと思って、そこから動き始めました。

 

SNSで「ふくいこどもホスピスプロジェクト」(現:NPO法人ふくいこどもホスピス)のアカウントを立ち上げると、その日に現役の看護師さんから活動に参加したいと連絡がありました。

 

闘病中のお子さんが入院中に楽しめるよう、子どもたちが描いた絵でパズルを作ったり、病院で食事が出ないつき添いの家族のためのお弁当を提供したり。闘病中ではない方も参加していただけるイベントも企画して、チャリティマラソンなども実施しています。闘病を経験した方のグリーフケア(悲しみや喪失感へのケア)も大切にしていて、もちろん病気が治ることがいちばんの理想ですが、そうではない場合も、ご家族との縁が切れることなくみなさんと繋がりを持てる場を作っています。「今日一日、楽しかった」と思えるきっかけ作りになればいいなと思っていますが、それは闘病中であってもそうではない方も変わらないと思っています。