育児で「自信が崩れ落ちました」
── 無事に出産され、お子さんとの生活が始まりました。初めての子育てはいかがでしたか。
加藤さん:周りから、生まれてすぐは「睡眠不足になって大変だよ」と聞いていたのですが、睡眠不足に関しては慣れているという自信がありました。局員時代、社会全体が今のような働き方ではなかったころは睡眠時間を削って仕事に行っていたことも多かったので、寝不足に関しては大丈夫だろうと思っていたんです。

でもその自信はすべて崩れ落ちました。仕事ではやってこられたことも、育児ではまったく通用しません。仕事では話が通じる大人が相手で、今後のスケジュールも事前にわかっています。それに、「これを頑張ったらお休み」というような見通しが立っていたのですが、子育てでは、終わりの見えない寝不足が続きます。まるでこの寝不足が一生続くような感覚にもなりましたし、そうすると心の余裕もなくなっていって。命を育てるという重さを背負いながら経験する睡眠不足はきつかったです。産後の数か月の間だけなのですが、経験がないことなのでこれがいつまで続くのだろうというネガティブな考えになってしまっていました。
── 終わってみると短いのですが、渦中にいる際はものすごく長く感じますね。
加藤さん:職場だったら周りに同僚がいるので話を聞いてもらうことができますが、家で過ごす真夜中の孤独感はつらかったです。もっと周りに頼ればよかったのですが、「自分で全部やらなきゃ」と背負いすぎていた部分があったと思います。毎日、日が暮れて夜が来るのが怖かったです。
── どうやってそれを乗り越えたのですか。
加藤さん:その期間は以前読んでいた『鬼滅の刃』を思い出して自分を鼓舞していました。 「夜に活動して鬼と戦う鬼殺隊もいるんだ!」「起きて頑張っているのは自分だけじゃないんだ!」と自分なりに励ましていました(笑)。
── 鬼殺隊に想いをはせて。
加藤さん:今思うと、「私、結構きてたんだな」と思いますね。日中、気分転換にお散歩に出かけて赤ちゃん連れのお母さんを見かけると「目に見えない苦労がたくさんあるけど、みんな頑張ってるんだ」と思っていました。話しかけることはないですし、実際の状況もわかりませんが、勝手に脳内変換してエールを送るんです。大変なのは私だけじゃないと思うことで救われました。
それに、人間ってすごいと思うのですが、朝日が登り始めてくると自然と元気が出てくるんです。外が明るいだけで「みんなも活動し始めている、私ひとりじゃない」と思えました。だんだんと子どもがまとまって寝てくれるようになり、自然とそういった不安感も解消されていきました。