「体を売ることも考えたけれど」

── 当時の米田さんの心境を思うと心が痛みます…。結局、学費はどのように工面したのでしょうか?

 

米田さん:寝る間を惜しんでアルバイトをしてある程度はお金を貯められたのですが、どう頑張っても10万円たりなかったんです。普通に稼ぐのはもう無理だ、自分の体を売ってお金を稼ぐしかないという思いが頭をよぎりました。でも、それを知ったら、私を0歳から10歳まで育ててくれた里親が悲しむなと思ったんです。

 

里親は本当にやさしくて、怒られたことはありませんでしたが、私がよくないことをすると、いつも悲しい顔をしていて。その顔が自然と浮かんできて、思いきって里親に電話しました。失望されるんじゃないかとドキドキしながら、「絶対に返すから、学費のために10万円を貸してください」と伝えました。自分は母とは違うから、絶対に返したい、という気持ちで。そしたら「返さなくていいよ。自分のために使いなさい」と言って、すぐにお金を振り込んでくれたんです。そのときのことを思い出すだけで、いつも涙が出てきます。

 

── 里親さんの大きな愛情が感じられますね。

 

米田さん:はい。私は里親に本当に愛されているんだなと、しみじみ思いました。母と一緒に暮らし始めたころ、あまりにも過酷で里親の元に帰りたいと里親に電話したことがあったんです。そのときは「それはできないんだよ」と断られ、私は里親に見放されたと思いこんでいました。でも、それは私の勘違いだったんだと悟りました。里親が10年間一緒に暮らした私を手放すとき、どれほどつらかったか…。1児の母となった今は、その気持ちが痛いほどわかります。

 

学費の支援を受けて以来、心が安定して、勉強にも仕事にも邁進できるようになりました。里親への揺るがない信頼が生まれ、物理的にどれだけ離れていても心の中にいつも里親を感じられるようになって。あのとき、やっと本当の「親子」になれたような気がします。

 

 

今まで距離を置いてきた里親の本当の愛情を感じる出来事があり、心が安定した米田さん。縁あって里親のお孫さんと結婚し、現在は1児の母として子育てをしています。妊娠を希望しながらなかなか授からず、不妊治療を続けた日々もあったそう。結果的に実子を妊娠、出産した経験を経て、あらためて「里親制度のもつ意味」の大きさを感じているそうです。

 

取材・文/小松﨑裕夏 写真提供/米田幸代 漫画/いよかん 取材協力/船木 香(むぎのこフォスタリング機関)、KADOKAWA