デンマークには「泥場」もあったのが印象的だった
── 印象に残っている砂場について教えてください。
どろだんご先生:世界中の3000か所以上の砂場を見に行きましたが、どの地域にも子どもの遊びとして砂場が存在しているということがわかりました。デンマークの園庭には、砂場のほかに泥場もあったのが印象的でした。砂と泥は粒子が違うので、まったく違う遊びが生まれると思います。
ドイツやオランダの公園もよく考えられていると思いました。日本では、水飲み場や蛇口がある水道は、砂場とは遠い位置に置かれていることが多いので、砂場で水を使うにはバケツで何回も水を運ぶ必要がありますよね。ダムや川を作りたくても、水を汲みに行っている間に水が砂に染み込んでしまって、うまくいかない経験がある方はいらっしゃると思います。
ドイツの砂場は砂場の中に水道があって、水を出す井戸式のポンプがあるのもおもしろかったです。母親のお腹のなかで羊水に浮かんでいた記憶が影響しているのかもしれませんが、日本の保育園の園長先生が、「子どもたちは本能的に水遊びが大好きで、どんな子も抵抗なく入っていける」という話をしていたのを思い出しました。砂場で砂に水を含ませて遊びの幅を広げる設計になっていて、子どもの遊びが真剣に考えられていることに感心しました。
── ヨーロッパの国々が公園を重要視しているのはどんな理由があるのでしょうか。
どろだんご先生:幸福度の高さにも関係していると思うのですが、北欧では仕事も夕方早くにきりあげて、白夜も関係し、家族で公園にレジャーシートを広げてピクニックをしている光景が当たり前でした。公園は、子どもたちだけではなく地域住民みんなの憩いの場として誰もが使う場所。まさに公共の場ですね。デパートやスーパーも早くに閉まるので、地域の公園や自然が自分の庭の延長線上として機能しています。公園に市民の関心が注がれて目が行き届くので、行政もこまめな手入れをしているのだと感じました。
── コロナ禍で日本でもアウトドアが注目されました。本来、公園は子どもだけの場所ではなく誰もが楽しめる場所だという視点が勉強になります。
どろだんご先生:大人になって、陶芸や家庭菜園をはじめたり、キャンプで土に触れる機会があったりする方もいらっしゃると思いますが、土に触ることで脳内に幸せホルモンとも言われるセロトニンが分泌されるというイギリスの論文があります。日本人は、遺伝子上でセロトニンが不足しやすい人種だと言われているので、本能的に土に触れることを求めているのかもしれません。砂場が充実しているヨーロッパでは、地域の方が公園で顔を合わせて、国の未来を担う子どもたちをみんなで育てていこうという雰囲気が生まれていることも感じて、これこそ日本も見習うべきところだと思いました。
砂場の研究を突き詰めていくと、公園をはじめとした公共施設のあり方や働き方、地域との関わり方についても考え直さねばなりません。壮大なプロジェクトのようにも感じますが、日本の公園や子どもたちの未来をよりよいものにしていくことが、私がこれから先30年かけて取り組んでいかなくてはならないことだという思いで活動を続けています。
…
防災士の資格を持つどろだんご先生は、公園の防災時の利用方法や災害への備えについて広める活動も行っています。最近の日本の公園では禁止事項が多く、「大人が先回りして危険を排除しすぎている」と感じているどろだんご先生。子どもがみずから危険を察知して、回避する力が失われてしまうことを懸念しているといい、いつどこで起きるかわからない災害への備えとして、子どもたちが自分で危険を周囲に知らせるための訓練をしてほしいと話していました。
取材・文/内橋明日香 写真提供/どろだんご先生