何歳になっても夢は叶う。言うのは簡単ですが、実行するのは難しい。ここにごくふつうの60歳になったベビー服店の店主が、30年越しで願い続けていた「絵本作家になる」夢を、45歳から本気で取り組んで達成した例があります。
45歳のとき真剣に残りの人生を考えるようになって
── 絵本作家の登竜門として有名な「講談社絵本新人賞」。近年、400〜500作品も応募が寄せられるそうですが、2023年度に受賞したのがみやもとさんでした。受賞当時はなんと59歳!新人賞にしてはベテランの年齢に見えますが、どういったご経歴なのでしょうか?
みやもとさん:20代のころから、ベビー・子ども服の店を営んでいます。子どものときから絵を描くのが好きで、高校も美術部。でも「職業にしたい」といった野望はなく、ライフワークみたいな形で絵は描き続けていました。絵本とは無縁の世界ですよね。結婚して29歳のころでしょうか。車でスキー場に向かう途中に雪景色を眺めていたら、ある物語がたまたま頭に浮かんで、それに絵をつけたら絵本になるなと思ったんです。
当時、結婚はしていたのですが、子宝に恵まれませんでした。そうした自分の心境を投影したかったのか、子どものいない老夫婦の元にクリスマスのギフトとして子どもがやってくる、そんな物語を思いついて。絵本の完成後、出版社に持ち込みましたが、ぜんぜん相手にされません。その後、子どもに恵まれ、33歳のときに双子(男の子と女の子)が産まれて以降は仕事もプライベートもあわただしい日々になりました。
── 絵本作家への道はまだまだ先?その間、制作活動は行っていたのでしょうか?
みやもとさん:生活文化雑誌『母の友』(現在は休刊)内の人気企画「一日一話」という短編の童謡コーナーに書き溜めた自作を応募して、2度掲載されました。それはうれしかったし、自信になりましたね。自分で「才能あるかも!」と思ったこともありました。といっても、子どもが小学生にあがるまでは、本格的に絵本を描くことはしていませんでした。ただ、30代のころは「将来は絵本作家になる」と、ばくぜんと思い込んでいて。応募の結果がどうあれ、あわてる気持ちはなかったです。

子どもの手が少し離れた40歳を機にひんぱんに絵本を描くようになり、絵本のコンテストに応募したのですが、結果はかんばしいものではありませんでした。それでも、体力的にも精神的にも若さというか、ずっとこういう感じが続くと思っていたんです。ところが45歳ころからよく疲れ目になり、体のコンディションも日によって好不調が出てくる。健康も体力も永遠に変わらないわけではないと思い知りましたね。子どもが中学生になり手がかからなくなってきたタイミングでもあり、「やりたいことをやりきろう」と思って、130万円を投じて通信教育で本格的に絵本の勉強を始めました。